シャルル・カミーユ・サン=サーンス(以下、「サン=サーンス」)といえば、
ユーモラスで親しみやすい「動物の謝肉祭」
(小学校音楽の教科書にも、「白鳥」が鑑賞教材として取り上げられています。)か、
ド派手な「交響曲第3番『オルガン付』」があまりにも有名ですが、
その他となると、余程でないとあまり聴かれていないのかもしれません。
(もう少しコアな方なら、他の代表作として、
「ヴァイオリン協奏曲第3番」や、
「序奏とロンド・カプリチオーソ」、「チェロ協奏曲」、
交響詩「死の舞踏」、オペラ「サムソンとデリラ」なども挙げるのでしょうね・・・)
実はワタクシ、恥ずかしながら、「動物の謝肉祭」と、交響曲第3番「オルガン付」以外の曲は、
つい最近まで全然興味がありませんでした。
(マリア・カラスが歌う、
「サムソンとデリラ」のアリア「あなたの声に私の心は開く」は別格でしたが・・・
マリア・カラスの名演中の名演なのでは、などと思っています。)
(参考)カラス・イン・パリ第1集
そこに新しい視点をもたらしたきっかけは、
2018年8月中旬に放送(BS朝日)の、
「題名のない音楽会」での「変幻自在な作曲家サン=サーンスの音楽会」でした。
サン=サーンスの他の作品も少しステキなのかも・・・と思えるようになりました。
そこで、いくつかの曲を調べているうちに、
楽天ブックスかどこかのサイトで、
たまたま田中希代子のCD(後述)を見つけました。
当初、予定になかった、ピアノ協奏曲のアルバムでした。
(田中希代子の名は実は初耳でした・・・)
試聴してみて、これはもしかするとステキな曲なのかも・・・と直感しました。
ヴァイオリン協奏曲やチェロ協奏曲の方に手を出すのはひとまず保留し、
ピアノ協奏曲で知られざるサン=サーンスの作品世界に触れてみようと思いました。
とりあえず、この曲の名盤と言われる、
パスカル・ロジェ(P)、デュトワ指揮のサン=サーンスピアノ協奏曲全集(こちらも後述)と、
田中希代子盤を買ってみることにしました。
先に届いたのが、田中希代子盤でした。
即、ハマってしまいました!
聴き比べの前に、この「エジプト風」のどういうところが気に入ったのかを書きます。
第1楽章の冒頭は、「クリスマスの朝」か、初日の出のようなイメージです。
あるいは、一面の銀世界、色で言えば、純白というか・・・
少し旋律は違いますが、
古い賛美歌「IN DULCI JUBILO」
(甘き喜びのうちに→
日本語賛美歌名では「もろびとこえあげ」(讃美歌102))を連想しました。
その後、次々と変わる曲想は、
ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」のように目まぐるしく多彩です。
中間部の沈鬱な感じのところが思い入れたっぷりに演奏されると好感度UPです。
一般的には、3つの楽章の中で最も魅力的な楽章です。
第2楽章の冒頭が、曲名の由来になる「エジプト風」のところです。
エキゾチックな響きがあふれてきます。
時折ピアノが、まるで「プリペアドピアノ」かと見紛うような、不思議な響きを奏でます。
第3楽章は、疾走感あふれた爽快・豪快な曲想になっています。
それでは、聴き比べです。
☆の低→高の順に紹介します。
指揮者・オケ名、レーベル、録音年月、
スペック(SACDハイブリッド、CD)、
カップリング曲等の順です。
☆5.0は満点、0.5点刻みで、☆3.0以上なら推薦盤です。
○アンナ・マリコヴァ(Anna Malikova)(P)、
トーマス・ザンデルリンク(Thomas Sanderling)指揮ケルンWDR交響楽団(audite)
2003年4,10,12月
SACDハイブリッド/通常CD
サン=サーンス ピアノ協奏曲全集(2枚組)
☆3.5
第1楽章 12:24
第2楽章 12:02
第3楽章 6:10
今回紹介する中では唯一のSACD盤です。
第1楽章の一部で、他の盤に見られないような沈滞感と憂愁を聴かせるところは絶品です。
他の盤に比較してもそこだけはピカイチかもしれません。
一方、他の箇所は全体的に控えめというか、こじんまりしているというか・・・
SACDで是が非でも聴いてみたい、という方ならともかく、
あえてチョイスしなくても可かな・・・
オケはスケール小さめです。
あまりSACD盤としてのメリットが見られないかもしれません。
○パスカル・ロジェ(P)、
シャルル・デュトワ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(DECCA)
1978年7月
通常CD(SHM-CD)
サン=サーンス ピアノ協奏曲全集(2枚組)
☆4.0
第1楽章 11:25
第2楽章 11:48
第3楽章 5:44
第1楽章のピアノは、十分なロマンティックさをもって演奏されます。
特にこの第1楽章の雰囲気はすばらしいです。
第2、第3楽章は佳演です。
特に第3楽章は、もう少し熱気があったらなぁ・・・
などとないものねだりしてしまいますが、
全体的に好印象の演奏です。
○ジャン=イヴ・ティボーデ(Jean-Yves Thibaudet)(P)、
シャルル・デュトワ指揮スイス・ロマンド管弦楽団(DECCA)
2007年2月
通常CD
カップリング フランク:交響的変奏曲、サン=サーンス:ピアノ協奏曲第2番
☆4.0
第1楽章 10:01
第2楽章 11:20
第3楽章 5:49
第1楽章はどの盤よりもスッキリ、グイグイと進んでいきます。
ややセカセカした印象がありますが、
それを打ち消すほどの、きらめくような高音が実に美しい!
第2楽章は標準的。
第3楽章の怒涛の展開を聴かせます。
迫力十分です。
○田中希代子(P)、
ピエール・デルヴォー指揮NHK交響楽団(キングレコード)
1965年1月
通常CD
カップリング サン=サーンス:ピアノ協奏曲第4番
☆4.5
第1楽章 10:05
第2楽章 9:02
第3楽章 5:33
第1楽章こそティボーデ盤よりわずかに遅いですが、
他の2楽章はどの盤よりも速い演奏となっています。
しかしその割には、たとえば前述のティボーデ盤ほどの駆け足感を感じさせません。
むしろ、ゆったりした感じに聴こえさえするのは不思議です。
私にとっては、この曲の素晴らしさ、楽しさ、美しさに開眼させられた演奏となりました。
田中希代子、ピエール・デルヴォーどちらも私にとっては初めて聞く名でした。
アーティスト名や、「なんだ、60年代のN響か・・・」という先入観にとらわれず、
虎視眈々と聴いてみれば、この演奏の素晴らしさがわかります。
この当時のN響は、
前述のデュトワ指揮のオケのような精度の響きではないのかもしれませんが、
ソリストの情熱に引っ張られるかのような、白熱した演奏を繰り広げています。
さすがはライブ!という生々しさが見えるかのようです。
第1楽章の繊細さこそ、パスカル・ロジェ盤やティボーデ盤に軍配をあげますが、
第2楽章以降は他の盤を圧倒する出来となっています。
第2楽章のエキゾチックさは、他の盤を上回ります。
第3楽章では、オケも燃えまくり、それをさらに煽るかのようなピアノの迫力が圧巻です!
その中間部では、サン=サーンスを超えて、まるでリストの曲みたいな、
きらびやかな展開となっています。
そう、あたかもスポーツカーのアクセルを全開にして疾走するような爽快感があります。
そして、きらめくフィナーレへ!
この曲のファースト・チョイスとしてイチオシです!
サン=サーンスの5つのピアノ協奏曲のうち、
他の4曲では、第4番と第2番を何回か聴きましたが、
この第5番ほどに「ステキな曲だな〜」と思えるには至っていません・・・
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