ブロムシュテット指揮SKDのシューベルト:「未完成」~慟哭が心の痛手を癒す・・・
シューベルトの「未完成」。
私はどうも「交響曲第8番」として認識していますが、
最近では、研究に基づき「第7番」または「第7(8)番」と表記されることが多いですね。
今回の記事では、あえて「未完成」で統一表記します。
それはさておき、「未完成」といえば、全交響曲の中でも有名な曲として知られています。
「〇〇ベスト100」とかのシリーズでは、よくベートーヴェンの「運命」(交響曲第5番)と、
一緒にカップリングされることがあります。
曲自体、30分未満で演奏されることがほとんどなので、
「ザ・グレート」とカップリングされることの方が多いかも。
とはいえ、実は、私にとって、「未完成」はそれほど好きな曲ではありませんでした。
初めて聴いたのが、確かカラヤン指揮ベルリン・フィルの演奏でした。
第1楽章の暗さと、しつこいぐらいの反復・・・
(ベートーヴェンなら、同じ旋律を違う形で変奏するなどの工夫をするはず・・・)
シューベルトの交響曲の反復の良さがわかったのは、
実はブルックナーを理解してからでした。
それでも、結局好きになったのは、「ザ・グレート」の方だけ。
「未完成」は、昔から名演と言われる演奏が目白押しでした。
ワルター、ムラヴィンスキーといった大指揮者など・・・
しかし正直言って、それらの指揮者であっても、
この曲を「愛する」までには至らなかった感じでした。
先日、ブロムシュテット指揮シュターツカペレ・ドレスデンによる、
シューベルトの交響曲全集についての記事を書きました。
→ブロムシュテット&シュターツカペレ・ドレスデンのシューベルト:交響曲全集(SACDハイブリッド盤)
この記事中でも、特に「未完成」の素晴らしさについて書いています。
しかし、この記事を書いた後で、
「未完成」が切実に響いてくる事が起こりました。
2020年7月5日に行われた、東京都知事選。
現職の小池氏に異議を唱える、二人の候補に期待していたのですが、
大差で負けてしまいました。
この選挙そのものが、日本の民主主義の幼稚さを表すものでした。
しかも、約17万票が、露骨なレイシスト候補に投票されていたという事実。
日本の先行きの暗さを思わずにはいられませんでした・・・
そんな中で、ふと暗~い「未完成」を聴いてみたくなる気分になり、
ブロムシュテット指揮の盤をかけてみました。
すると・・・
今まで、こんなに切実に、「未完成」が心に沁みることなんかなかった・・・
心の痛手を癒すかのような、まるでシューベルトが私の代わりに慟哭してくれているかのような、
不思議な感覚がありました。
「未完成」だけ何度もリピートして聴くのは、おそらく初めてでした・・・
ようやく真の意味で、この曲を「愛する」に至ったのかもしれません。
シューベルト: 交響曲全集<タワーレコード限定>(SACDハイブリッド盤)
(参考)シューベルト:交響曲全集 ヘルベルト・ブロムシュテット(通常CD)
それから数日、試しに、家の中にあるだけの「未完成」も聴いてみました。
クレンペラー、ワルター、ムラヴィンスキー、ヴァント(2種類)、インマゼール・・・
しかし、どれを聴いても、ブロムシュテット盤ほどの感動は、正直言ってありませんでした。
中には、暴力的な響きにさえ感じてしまう盤もありました・・・
(どれとは言わないですが・・・)
すべて参考
クレンペラー盤(SACDハイブリッド)
ワルター盤(SACDハイブリッド)
ムラヴィンスキー盤(SACDシングルレイヤー)
ヴァント&BPO盤(通常CD)
ヴァント&ベルリン・ドイツ交響楽団盤(SACDハイブリッド)
インマゼール盤(通常CD)
そういえば、高校生の頃、市立図書館で、クラシック音楽を聴きながら、
音楽関係の評論や名盤紹介の本をよく読んでいました。
その中で、志鳥栄八郎(1926-2001)が書いた何冊かの本に、
彼が難病スモンで苦しんでいた時、慰めになったのが、
ベートーヴェンの第9と、シューベルトの「冬の旅」だった、という記述がありました。
(何という本かは忘れましたが・・・)
苦悩を超えて歓喜へ、の極めて明るい結末で終わる「第9」と、
絶望で終わる「冬の旅」という両極端・・・
「未完成」は「冬の旅」ほど暗くはありませんが、
絶望的な第1楽章と、穏やかな第2楽章のコントラストは、
まさに1曲で絶望から慰めへ向かえる曲なのかもしれませんね。
今週、仕事をしながら、ふと頭の中に「未完成」が流れていることが多かったです。
音楽を通しての「癒し」でした。
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