書評:鈴木崇巨(すずき たかひろ)著『福音派とは何か?: トランプ大統領と福音派』(春秋社)
札幌市中央区のジュンク堂書店のキリスト教コーナーでふと見つけた本です。
著者名よりも、タイトルがいかにも時事的で少しインパクトがありました。
鈴木崇巨(すずき たかひろ)著『福音派とは何か?: トランプ大統領と福音派』(春秋社)です。
本に付いている帯には、「アメリカ・ファーストの真実」とか、
いかにも政治的・時事的な内容だと思わせるものでしたが、
中身はいい意味で期待を裏切るものでした。
立ち読みした段階で、これは政治・時事の本ではなく、
正統な信仰についての本だと確信しました。
もちろん、副題にある「トランプ大統領と福音派」ということに関しても、
少しは知的満足を得ることができると思います。
ただ、もしこの本を、
「トランプ大統領の支持層である、福音派というアブナイ宗教を暴いてやろう!」
みたいな目的で購入するなら、とんだ肩透かしを食らうことになります。
むしろ、謙虚な心で、時事問題を足掛かりに、
福音派ってどんな教派で、世界的にはどんな存在なのだろう、
というのを学びたい方にオススメです。
著者は元々日本キリスト教団の牧師で、現在は引退しておられます。
「いのちのことば社」とかのバリバリなキリスト教系出版社からではなく、
仏教や哲学系の本を多く出版している春秋社から、
このような本が出たのがオドロキでした。
なぜなら、著者の言う「福音派」とは、
一般的な教会員(どこ系問わず)から見た
「福音派=聖書は文字通り信じるが、奇跡はあまり信じないし、
カリスマ系はどちらかというと否定する。」
というのから離れ、むしろ定義としては、「カリスマ・ペンテコステ系」の、
奇跡・癒しあり、異言・預言あり(聖霊の九つの賜物すべて)、
といった系統のをもって、「福音派」としているからです。
アメリカ合衆国だけの話ではなく、全世界規模の視点で、
福音派(及びカリスマ・ぺンテコステ派)を見据えるのは、
さすがだと思いました。
もちろんその中には、日本も含まれます。
読んでいて気づいたのが(気になる、といえば気になる・・・)、
著者独自の視点として、「誰がキリスト教なのか」の幅がとても広いです。
プロテスタント諸教派の方にとっては、「ものみの塔」や「末日聖徒(モルモン)」の方々が、
同じ「キリスト教」とカウントされるのに異議を唱えたくなるかもしれません。
しかし、著者は、「私はキリスト教徒です」という人をすべてキリスト者として認識しています。
(引用)
キリスト教徒人口の定義
信仰はいかなる宗教にとっても、それを信じる人にとっては、かけがいのないものです。筆者は「私はキリスト教徒です。」という人をすべてキリスト教徒として計算しています。他の教派・教団を「異端」と言って排除している人がいますが、筆者はそのような立場を取っていません。他国の統計や年鑑も、モルモン教やエホバの証人などの特色のある教派の信徒もキリスト教徒として計算に入れています。
(P.181より引用終)
そうすると、一般的に認識されている、「日本のキリスト教人口は約100万」ではなく、
「約200万人」になるそうです。
(そのうち、一般の教会から異端視されている、「ものみの塔」、「末日聖徒・・・」、
それといわゆる「統一教会」だけで、100万人近くになるそうです。)
あえて言うと、日本のキリスト教会の統計記事に関しては、
カトリック教会の外国人信徒については何も触れられていないので、
(正確な統計はわかりませんが、下手すると、日本人のカトリック信者数と同等か、
それ以上いる、という説があります。)そこは今後考慮されるといいかな、とも思いました。
著者がわざわざ1章を割いて、「もう一つのキリスト教」という章を書いています。
日本キリスト教団&WCC系の方にとってはトンデモ記事、と感じられるかもしれませんが、
よく適切にまとめておられると感心しました。
(引用)
話は変わりますが、キリスト教が、なぜローマ帝国中に急速に広まっていったかをふしぎに思っている人が多くいるのではないでしょうか。筆者は、少年時代に学校の世界史の授業を聞きながら不思議に思っていました。キリスト教が教理だけを布教して広まったわけではないのです。むしろ、このような(※この本の第4章で述べられていること)聖霊の働きによる奇跡的な出来事を伴っていたので、キリスト教が急速に広まっていきました。学校ではこのようなことが話されることはないと思います。キリスト教が急速に広まるときには、常に、「知的」な面と「聖霊の賜物」の面の両方がバランスよく働いています。(中略)
日本では弾圧されたキリシタンの信仰や明治以降に入ってきたプロテスタントの「知的なキリスト教」やキリスト教の学校の影響が非常に強烈であったため、キリスト教のもう一つの側面である「聖霊の働き」がほとんど知られていません。福音派を理解するためには、まったく頭を切り替えて「もう一つのキリスト教」があると思った方が早く理解できると思います。
(第4章「もう一つのキリスト教」P.54~55から引用終)
知的なキリスト教から、霊的体験を伴うキリスト教へ・・・
日本のキリスト教会は転換を図ることができるでしょうか?
それとも、知的キリスト教だけで干からびていくのをただ座して待つのみか・・・
本書は日本のキリスト教会への提言、といったものではないですが、
こういうキリスト教信仰が今もあるのだ、
ということを多くのキリスト者に認識してもらいたいものです。
ところで、同じ著者の本としては、
『1年で聖書を読破する。 永遠のベストセラー完読法 』(Forest Books)と、
『求道者伝道テキスト 』(地引網出版社)を読んだことがあります。
どちらもキリスト教の手引きとしてオススメですよ。
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