CD イリーナ・メジューエワ (P)「京都リサイタル2017 (ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30,31,32番)」
ベートーヴェンの後期ピアノ・ソナタ、第30番、第31番、第32番は、
私にとっては、ベートーヴェンのピアノ作品で最も好きな作品です。
初めて聴いたのは、確か高校生の頃だったと思います。
特に好きなのが、第31番の第3楽章と、第32番の第2楽章です。
第31番の第3楽章では、「嘆きの歌」からフーガが現れ、
精神を再構築して(私はそう思うだけですが・・・)aufheben(止揚)する・・・
そのカタルシスがすばらしいです。
第32番の第2楽章は、
トーマス・マンの小説『ファウストゥス博士』の説がロマンティックですね。
天に引き上げられていくかのような・・・
(あえて文学で言えば、ゲーテの『ファウスト』第2部の最後あたり?・・・)
一番最初に聴いた演奏は、アシュケナージによるものでした。
(参考)
その後、バックハウスやブレンデル、ゼルキン、グールドその他の演奏で聴きました。
変わり種なら、ウゴルスキ盤(ただし第32番のみ)とか・・・
しかし今回、イリーナ・メジューエワの演奏を聴いて驚愕しました!
京都リサイタル2017 (ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第30,31,32番)メジューエワ
「今までこういう演奏をした人はいなかったのでは?」
第30番の第1楽章の情報量の多さから驚異でした。
盤を最初から最後まで聴いて、それからもう一度繰り返して聴いてみました。
その後に、我が家にあるベートーヴェンのピアノ・ソナタのCDを引っ張り出して、
とりあえず第30番だけで聴き比べてみました。
(3つのソナタのうち、最も演奏時間が短いからです。)
前述のアシュケナージ盤はもとより、バックハウス、リチャード・グード、
バレンボイム、HJリム、田部京子・・・と聴いてみましたが(今回は一つ一つ紹介しませんが)、
メジューエワ盤と比較すると、どれもムード音楽の域を出ないように思えました。
(唯一、バレンボイム盤がかなりロマンティックに弾いていましたが・・・)
そういえば、メジューエワは昨年(2017年)、
講談社現代新書から、『ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ』という本を出しましたね。
ピアノの名曲 聴きどころ 弾きどころ (講談社現代新書)
私は立ち読みしただけで、相当スコアに詳しくないと読みこなせないと思わされました・・・
そういうスコアの読みの深さが、見事に演奏に反映されている、
稀有な録音だと思います。
第32番の第2楽章、広々とした天空の世界に引き上げられていくような最後の部分、
その美しさを、高校生の時に聴きふけった時のように味わうことができました。
それでいて、演奏者の個性よりも、ベートーヴェンの音楽そのものしか感じさせない、
そういうところが素晴らしい盤です。
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