プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番聴き比べ16盤
2017年1月下旬に、
プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番の聴き比べ記事を書きました。
→プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番聴き比べ14盤
今回は、同じくプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番の聴き比べ記事です。
ところで、プロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第1番と第2番、
どちらが好きですか、と問われたら、どう答えますか?
模範解答は、「どちらも好き」か、第1番、第2番どちらかを挙げますよね。
第1番の方は、まさに青春のきらめきのようです。
かなりアバンギャルド、前衛的な感じがします。
よほどの奏者でないと、真価がわからないかもしれません。
(私の聴き比べ基準で言えば、☆4.0以上?
第1楽章、第3楽章の各終盤で、天上的な響きを出せたら合格点です。)
対して第2番の方は、より古典的です。
少なくとも第3楽章の前半までは、
それなりの腕前のヴァイオリニストと指揮者・オケなら
十分素晴らしさを引き出せると思います。
だから、親しみやすいのは、第2番の方かな、と私は思っています。
この記事を書いている時点では、私は第2番の方が好きです。
(ころころ変わりますけど・・・(^-^;)
第2番の第1楽章のイメージは、長い冬の夜のロシアです。
第2楽章は、美しい白銀の雪景色。
第3楽章は、ロシアを飛び出してスペインへ!
スカートをひらひらさせて踊るスペイン舞踏、という感じです。
第3楽章の後半は、演奏によってイメージが違ってきます。
ともすると、踊りながら酔っ払って最後は倒れ込む・・・
みたいな感じに聴こえるのが多いです。
一方では、ソロの踊り手と、手拍子の掛け合いが見えてきます。
ちょうど往年のアメリカのミュージカル映画の、
タップダンスのシーンみたいな感じか、
あるいは、ジャズのセッションみたいな感じでしょうか・・・
聴きどころは、第2楽章の甘美な抒情性と、
第3楽章後半をどう展開するか、だと思っています。
第2楽章では、中間部からの甘いカンタービレで、
雪景色が広がるような感じなら合格点。
第3楽章は、酔っ払って倒れるのでも、
ダンサーがセッションしているのでも、
とにかく何らかのイメージが出てくればOKだと思います。
(第3楽章後半でよくないのは、音の迷路になってしまうこと・・・)
第2番は、第1番のカップリングとして収録されている場合が多いですが、
ヤッシャ・ハイフェッツを代表として、第2番しか録音しない場合もあります。
少し残念・・・
それでは、聴き比べです。
オススメ順に紹介します。
ソリスト名、指揮者・オケ名、
レーベル・録音年月・
スペック(通常CD,SACD ハイブリッドorシングルレイヤー)、
(2ch Stereo or Surround etc...) 、
カップリング曲の順です。
☆5.0は満点、0.5点刻みで、☆3.0以上なら推薦盤です。
(今回は盤数が多いので、「とりあえず1枚」なら、
☆4.0以上の盤をオススメします。)
◯ダヴィッド・オイストラフ(Vn)、
アルチェオ・ガリエラ指揮フィルハーモニア管弦楽団(WARNER)
1958年5月
SACDハイブリッド(2chSTEREO、CD)
カップリング プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、ヴァイオリン・ソナタ第2番
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、第2番他(SACDハイブリッド)
☆4.5
第1楽章 11:00
第2楽章 10:25
第3楽章 6:26
自然に「歌」が溢れ出てくる演奏です。
後述のコパチンスカヤ盤のような、手練手管の限りを尽くさずとも、
この曲はこのような自然体で(もちろん深い技巧に裏打ちされて、ですが・・・)演奏した方が、
豊かにのびのびと響くのだよ・・・
と言っているような感じですね。
演奏者を忘れて、曲そのものの美しさが語りかけてくる、
あるいは、作曲者プロコフィエフその人が、
親しく語りかけてくるかのような・・・・
第2楽章後半は涙が出てくるほどの美しさがあります。
第3楽章後半〜最後のみ、曲の方向性を見いだせない感じがしますが、
(そういう意味で合格は、後述のシャハム盤とシュタインバッハー盤)
それ以外は、実に完璧な演奏だといえます。
文句なく、この曲の代表盤に選びます。
◯ギル・シャハム(Vn)、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団(DG)
1995年6月
通常CD
カップリング プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
Violin Concertos / Solo Sonata Op 115 CD, Import
☆4.5
第1楽章 10:26
第2楽章 9:43
第3楽章 6:19
プレヴィンによるオケのサポートが充実しており、
豊麗な響きがずっと続きます。
ギル・シャハムのヴァイオリンも甘美でロマンティックです。
この演奏で特にすばらしいと思ったのは、第3楽章です。
途中でのヴァイオリンとオケの掛け合いが実に見事です。
ジャズのセッション演奏みたいな熱気があります。
◯リディア・モルドコヴィッチ(Lydia Mordkovitch)(Vn)、
ネーメ・ヤルヴィ指揮スコティッシュ・ナショナル管弦楽団
(現:ロイヤル・スコティッシュ管弦楽団)(CHANDOS)
1988年9月
通常CD
カップリング プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、ヴァイオリン・ソナタ第1番
Violin Concertos Nos 1 & 2 / Violin Sonata No 1
☆4.0
第1楽章 10:23
第2楽章 9:23
第3楽章 5:50
残響が多めなのが、幻想的な響きを醸しだしてプラスに働いています。
特にすばらしいのは第1楽章と第2楽章。
第2楽章前半の、ヴァイオリン・ソロの線の細さも好印象につながっています。
第2楽章後半部は、オケがソロに寄り添い、夢想的な世界を作り上げていきます。
第3楽章は標準的、かな・・・
後述のグルズマン盤と同じく、指揮者N・ヤルヴィの名サポートを聴く盤です。
◯ヤッシャ・ハイフェッツ(Vn)、
シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団(RCA→SONY)
1959年2月
SACDハイブリッド(SACD Multi-ch、SACD Stereo、CD)
カップリング シベリウス:ヴァイオリン協奏曲、グラズノフ:ヴァイオリン協奏曲
Violin Concertos (Hybr)
☆4.0
第1楽章 9:02
第2楽章 7:59
第3楽章 6:11
第1楽章は今回紹介した中で最速で、
ストレートに曲に切り込んでいきます。
それでいて、素っ気ないとか、機械的、というところは皆無で、
余計な解釈をしなくても素材そのものの味が素晴らしいのだよ、
と言わんばかりの演奏です(北海道料理?(*^-^))。
プロコフィエフを聴く、というよりは、
ハイフェッツを聴く盤、と割り切った方が楽しめると思います。
オケも、聴きどころが明快です。
私にとっては、この曲の魅力に気付かされた演奏です。
◯パトリシア・コパチンスカヤ(Patricia Kopatchinskaja)(Vn)、
ウラディミール・ユロフスキ(Vladimir Jurowski)指揮
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団(AVEX)
2013年5月
通常CD
カップリング ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲
プロコフィエフ&ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲集
☆4.0
第1楽章 11:03
第2楽章 10:06
第3楽章 6:15
ヴァイオリン・ソロの孤独な響きで始まる第1楽章から、
他の盤と異なった、思い入れたっぷりな響きが聴こえてきます。
今回紹介する中で、最も個性的なソロといえます。
やり過ぎとみるか、「もっとやれ!」と快哉を叫ぶか、
あとは好みの問題でしょうね。
(私は中間ぐらい・・・)
◯アラベラ・シュタインバッハー(Arabella Steinbacher)(Vn)、
ヴァシリー・ペトレンコ指揮ロシア・ナショナル管弦楽団(PentaTone)
2012年1月
SACDハイブリッド(SACD Multi-ch、SACD Stereo、CD)
カップリング プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
2 Violin Concertos Hybrid SACD, SACD, Import
☆4.0
第1楽章 11:20
第2楽章 10:06
第3楽章 6:12
第3楽章が特にすばらしいです。
特に後半のところは、なんだかフォルムがよくわからなくなる演奏が多い中、
聴きながら、フラメンコのステップを踊るようなイメージが見えてきそうです。
録音が優秀です。
◯ヴィクトリア・ムローヴァ(Vn)、
アンドレ・プレヴィン指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(DECCA)
1988年6月
通常CD
カップリング ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番
☆4.0
第1楽章 10:39
第2楽章 9:43
第3楽章 6:18
当時のムローヴァの硬質な響きが、曲にピッタリとしており、
それでいて、第2楽章のカンタービレが実に美しいです。
プレヴィンのサポートも充実しています。
(よくよく考えると、プレヴィンの名は、
ギル・シャハム盤、チョン・キョンファ盤にも出てきますね。)
◯チョン・キョンファ(Vn)、アンドレ・プレヴィン指揮ロンドン交響楽団(DECCA)
1975年10月
通常CD
カップリング プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、
ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲集
☆3.5
第1楽章 10:52
第2楽章 9:54
第3楽章 6:15
プレヴィンのオケのサポートが充実しているし、さすがはチョン・キョンファ!
と思わせるところも随所にありますが、
全体としては、曲の美しさ、優美さを引き出すところまでは至っていないのかも?
◯神尾真由子(Vn)、
トーマス・ザンデルリンク指揮ハレ管弦楽団(RCA→SONY)
2010年6月〜7月
通常CD
カップリング チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
☆3.5
第1楽章 11:06
第2楽章 9:08
第3楽章 6:29
全体的にすっきりとした演奏です。
ソロの骨太さが印象的でした。
録音も優秀で、万人向きかも・・・
第3楽章のオケの鮮明さが印象に残りました。
◯庄司紗矢香(Vn)、
ユーリ・テミルカーノフ指揮サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団(DG)
2012年9月
通常CD(SHM-CD)
カップリング プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番&第2番
☆3.5
第1楽章 11:01
第2楽章 9:51
第3楽章 6:18
庄司紗矢香のソロはそれほど自己主張を感じることなく、
ソロとオケが渾然一体となって美しいハーモニーを響かせようとしている、
という印象でした。
第2楽章後半部のソロの高音部はすごく美しく響いてきました。
◯ヴァディム・グルズマン(Vadim Gluzman)(Vn)、
ネーメ・ヤルヴィ指揮エストニア国立交響楽団(BIS)
2015年7月
SACDハイブリッド(SACD Multi-ch、CD)
カップリング プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
Prokofiev: Violin Concertos Hybrid SACD, SACD, Import
☆3.5
第1楽章 10:25
第2楽章 10:02
第3楽章 5:59
N・ヤルヴィの名サポートが光りました。
第2楽章後半は、少し早めのテンポで、
春を迎えた喜びを表しているかのようでした。
グルズマンのソロは若干線が細く、
控えめな感じでした。
これはソロよりもオケを聴くべき盤かもしれませんね。
◯ジェイムズ・エーネス(James Ehnes)(Vn)、
ジャナンドレア・ノセダ指揮BBCフィルハーモニック(Chandos)
2012年6月、2013年2月
通常CD
※プロコフィエフ:ヴァイオリン作品全集(2枚組)
Complete Works for Violin CD, Import
☆3.5
第1楽章 10:35
第2楽章 9:37
第3楽章 6:10
ヴァイオリンの高貴な響きがすばらしく、惚れ惚れするほどですが、
オケは伴奏の域を出ていない感じでした。
エーネスのソロで、巨匠級の指揮者+メジャーオケで聴いてみたいです。
◯テディ・パパヴラミ(Tedi Papavrami)(Vn)、
アントニ・ヴィト指揮ポーランド国立放送交響楽団(Naxos)
1996年1月
通常CD
カップリング:プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第1番、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ
Violin Concertos 1 & 2 CD, Import
☆3.5
第1楽章 10:32
第2楽章 10:05
第3楽章 6:27
第1楽章のみ、なぜか気乗りしていない感じがしますが、
第2楽章、第3楽章と進むにつれて徐々に高揚感がでてきます。
ただ、完成度は第1番ほどではないと思います。
なお、昨年(2016年)に、ソリストのパパヴラミの自叙伝が日本でも出版されました。
興味のある方はどうぞ・・・
テディ・パパヴラミ『ひとりヴァイオリンをめぐるフーガ』(藤原書店)
※私は未読です。かなり値が高いのが難点・・・
◯ダヴィッド・オイストラフ(Vn)、
クルト・ザンデルリンンク指揮ベルリン交響楽団(現:ベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団)
(harmonia mundi)
1965年3月
通常CD
※5枚組CD”Berliner Sinfonie-Orchester KURT SANDERLING"のうちの1枚。
Various Symphonies/Concertos Box set, Import
☆3.0
第1楽章 10:28
第2楽章 9:55
第3楽章 6:06
録音でかなり損しているように思われます。
もう少しハリのある録音であれば、☆4.0はつけられるのかも?
収録の際の雑音もマイナスです。
さすがはザンデルリンク、というところもいくつかあるのですが・・・
◯フランク・ペーター・ツィンマーマン(Vn)、
マリス・ヤンソンス指揮フィルハーモニア管弦楽団(WARNER)
1991年8月
通常CD
カップリング シベリウス:ヴァイオリン協奏曲
シベリウス:ヴァイオリン協奏曲、プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番
☆3.0
第1楽章 10:33
第2楽章 9:53
第3楽章 6:09
当時のEMI特有の録音がマイナスになっているようで、
音がせり出してくる感じがしません。
ただし、第1楽章と第3楽章の終盤では、
我が家の壁を揺るがすような重低音が響いてきました。
全体的に、標準的な演奏、という以上の感想はないかも・・・
ヤンソンスの指揮も特に印象に残りませんでした。
◯マキシム・ヴェンゲーロフ(Vn)、ロストロポーヴィチ指揮ロンドン交響楽団(TELDEC)
1994年7月
通常CD
カップリング ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第2番
プロコフィエフ&ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第2番
☆3.0
第1楽章 11:35
第2楽章 10:44
第3楽章 6:14
標準的な演奏。オケも存在感に乏しいかも・・・
ここで、第1番と第2番、私の点数比較です。
オイストラフ新盤、チョン・キョンファ盤、ヴェンゲーロフ盤、
シュタインバッハー盤、パパヴラミ盤、モルドコヴィチ盤、
ギル・シャハム盤、グルズマン盤、エーネス盤の以上9盤は、
同じ指揮者・オケで録音しています。
オイストラフ新盤 第1番☆4.5 第2番☆3.0
チョン・キョンファ番 第1番☆4.0 第2番☆3.5
ヴェンゲーロフ盤 第1番☆4.0 第2番☆3.0
シュタインバッハー盤 第1番☆4.0 第2番☆4.0
パパヴラミ盤 第1番☆4.0 第2番☆3.5
モルドコヴィチ盤 第1番☆4.0 第2番☆4.0
ギル・シャハム盤 第1番☆3.5 第2番☆4.5
グルズマン盤 第1番☆3.0 第2番☆3.5
エーネス盤 第1番☆3.0 第2番☆3.5
こう並べてみると、☆評価が変わらないのは、
モルドコヴィチ盤と、シュタインバッハー盤の2盤です。
あとは、どちらかが向き不向きがあるのかもしれないですね・・・
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影の王子様、コメントありがとうございます。
オススメの、パールマン&バレンボイム盤、
近々入手して聴いてみることにします。
教えていただき感謝です。
実は、この記事を書き終えてから、
パールマン&ロジェストヴェンスキー盤(第1番&第2番)、
同じくパールマン&ラインスドルフ盤(パールマンは第2番のみ)が届きました。
それらを含めて、後日、
聴き比べ補遺を書きたいと考えています。
投稿: てんしちゃん | 2017年2月 7日 (火) 00時18分
こんばんは。
記事を読ませていただいて、手持ちの
パールマン&バレンボイム&シカゴのテルデック盤
を聴きなおしてみました。
記事を読みながら聴くと、曲の魅力を再発見した思いです。
甘美さとリズミカルさを兼ね備えた名曲ですね。
パールマンでは甘い音色が曲想とマッチングしてますが
ご指摘の第3楽章後半の処理などは甘いかなぁという感じです。
ノミーネート盤の数々、聴いてみたいです。
ありがとうございました。
投稿: 影の王子 | 2017年2月 5日 (日) 22時28分