書評:池上彰 著『超訳 日本国憲法』(新潮新書)
池上彰さんが日本国憲法全文を解説すると、
こんなにわかりやすくなるものか、とオドロキの本でした。
2015年4月20日初版の『超訳 日本国憲法』です。
以前、必要に迫られて憲法に関する本を何冊か読みましたが、
はっきり言って、退屈かつ苦痛でした。
しかし、池上彰さんの解説及び「超訳」によって、
何か初めてヴェールを剥ぎ取られたような感がありました。
難しい法学の講義のようにではなく、
テレビでおなじみの、豊富なニュース事例を具体的に挙げての逐条解説は、
日本国民なら右派左派中道問わず、
一読の価値はあると思いますし、
社会科(公民・政治経済)を勉強中の生徒・学生や、
各種公務員試験に受験予定の人にもわかりやすいと思います。
憲法各条のうち、
古めかしい表現や難解箇所を「超訳」してわかりやすくして、
日本国憲法にかかる蜘蛛の巣を見事にはらいのけてくれた業績には拍手喝采です。
(なお、すべての条文を「超訳」しているわけではありません。)
憲法を語る上で最も争点となっている、第9条については、
すべての戦争を放棄したという解釈と、
自衛権は保持した(政府解釈)、という解釈の2つに基いて、
2通りの「超訳」が掲載されています。
本文から引用します。
(引用)
まずは、すべての戦争放棄バージョンです。
《第九条 日本国民は、正義が守られ、混乱しない国際社会を実現することを誠実に強く求め、あらゆる戦争を放棄する。国際紛争を解決する手段として、武力を使って脅すことや武力を使うこともしない。
② 武力は使わないと宣言したのだから、陸軍も海軍も空軍も、その他の戦力も持たない。国が他国と戦争する権利は認めない。》
一方、政府の解釈を訳せば、次のようになります。
《第九条 日本国民は、正義が守られ、混乱しない国際社会を実現することを誠実に強く求め、侵略戦争を放棄する。武力を使って脅すことや武力を使うことは、国際紛争を解決する手段としては放棄する。しかし、自衛権までは放棄したわけではない。
② 侵略戦争や国際紛争を解決するための武力による脅し、武力行使はしないので、そのための陸軍や海軍や空軍や、その他の戦力は持たない。国が他国と戦争する権利は認めない。だが、自衛のための力を持つことまでは否定しない。》
(『超訳 日本国憲法』PP.47〜48から引用終)
単に憲法の全文を逐条解説のようなことをして終わり、ではなく、
今を、そしてこれからの日本の未来を読み解くために、
時事的な話題である、「集団的自衛権と日本国憲法」というテーマで、
1章を設けています。
集団的自衛権の議論の際に、安倍首相が使ったレトリックについて、
このように述べています。
(引用)
安倍首相は、集団的自衛権の必要性を強調する記者会見の中で、日本人母子を保護した米軍の艦船が攻撃された場合、自衛隊は米軍の艦船を守ることを認めるべきだと主張しました。
ところが、アメリカ国務省領事局のウェブサイトを見ると、「緊急時にアメリカが救出するのは米国籍の市民を最優先する」と書いてあります。さらに「市民救出のために米軍が出動するというのは、ハリウッドの台本だ」とも。つまり、安部首相が例に挙げた「米軍が日本人の母子を救出」というのは、二重にありえない設定なのです。
感情論に訴えて自己の主張を通そうとするのは、よくある手法ですね。
(同著PP.199から引用終)
こういうお粗末なレトリックを見抜けず、なし崩し的に解釈改憲に進んでいる、
今の日本の政治は、危機的な状況にあるといえないでしょうか?
この『超訳 日本国憲法』には、おまけとして(?)、
北朝鮮、中国、米国の憲法もそれぞれ1章あてて取り上げています。
中国は、黒見出しで「憲法を守ると逮捕される国」というのがありました。
(同著PP.211)
憲法と現実との乖離を少し皮肉を交えて書いています。
しかしこれは「中国だから」「北朝鮮だから」「米国だから」
で笑って済ませる話ではないと思います。
我々が政治に無関心になればなるほど、政治家はやりたい放題で、
戦争ができる国が「豊かな国」で、報道の自由はなくなり、
福祉を切り捨て、大企業に有利な世の中になり、
いつの間にか労働者の賃金が東南アジアや中国の内陸部並になるのかもしれません。
あるいは、米国流に、自分を守る権利としての銃所持まで出てくるかもしれません。
私は闇雲に「憲法を守れ!(改憲反対)」と主張する気はありませんが、
正式な手続き(国民投票)抜きで、政府の勝手な解釈改憲次第で、
白を黒というような世の中になってほしくはないと願っています。
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