マーラーの未完成の大作、交響曲第10番。
マーラーの死によって完成できなかった作品です。
デリック・クックによる補筆完成版の存在は昔から知っていましたが、
作曲者以外の人が大幅に手を入れた作品は聴くに値しないと思い、
全曲版は意図的に聴くのを避けていました。
今回は第1楽章「アダージョ」だけの演奏は取り上げず、
全曲盤のCDのみを取り上げます。
(全曲盤と第1楽章「アダージョ」だけのものでは、
かなり扱いが違ったものになります。)
なお、第1楽章「アダージョ」のみの記事はまた別の機会に書きたいと思っています。
だいぶ前から、第1楽章「アダージョ」だけの演奏は聴いていました。
バーンスタイン指揮ウィーン・フィルの演奏です。
きれいな曲だが、弱々しい(というか、オーケストレーションが薄いというか)
感じが否めず、ごく稀に聴く程度でした。
あのバーンスタインをもってしても、味付けのしようがない?
(参考)バーンスタイン指揮VPO(DG)
※第8番とのカップリング。
評価を変えるきっかけになったのは、
マゼール指揮ウィーン・フィルの演奏です。
マーラーの第9のオマケ程度にしか思っていませんでしたが、
第9の第4楽章アダージョに並ぶ価値があるのだと気づくことができました。
(参考)マゼール指揮VPO
※第9番とのカップリング。
ちなみに私が現在所有しているのは全集版。
上記CDがすばらしかったので、全集版に買い替えました。
(参考)マゼール指揮VPO全集盤(大地の歌を除く)
さらに、不完全な形でもいいから全曲を聴いてみたいと思ったのが、
最近(2015年3月)入手した、
ガリー・ベルティーニ指揮ケルン放送交響楽団による、
マーラー交響曲全集によってでした。
この全集では、第1楽章「アダージョ」しか収録されていませんですが、
すごく美しい曲であることを改めて確信しました。
(参考)ガリー・ベルティーニ指揮ケルン放送響の全集盤
そこで、思いきっていくつかの盤を買って聴いてみました。
参考にしたのは以下のサイトです。
→①マーラー 交響曲第10番(全曲盤) 所有盤ディスコグラフィ →②マーラー 交響曲第10番 ---補筆版を容認するか否か--- →③マーラー : 交響曲第10番(デリック・クック版) 特に①のサイトは、全曲盤を38種類も持っていて、
一つ一つに適切なコメントを書いておられるようなので、
購入に際しては大変心強い「ガイドブック」的存在となりました。
今回取り上げるCDは以下の5枚です。
(2015年4月11日追記 インバル指揮2種を追記済)
録音の古い順に並べます。
(その他に全曲版としては、
ジンマン指揮チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団による、
カーペンター版も所有していますが、今回は割愛します。
カーペンター版は評判ワルイですね・・・
さすがに未だに聴く気になれないのでパス!
ただし、第1楽章だけなら別の機会に取り上げようと思います。)
◯クルト・ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団(1979)
※デリック・クック版第3稿第1版使用
第1楽章 23:09
第2楽章 13:04
第3楽章 04:02
第4楽章 11:14
第5楽章 21:48
◯ジェームズ・レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団(1978〜80)
※デリック・クック版第3稿第1版使用
※第1、3、4〜7,9、10番の選集。
第1楽章 24:39
第2楽章 11:57
第3楽章 04:18
第4楽章 12:41
第5楽章 28:32
◯サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィル(1999)
※デリック・クック版第3稿第2版使用
第1楽章 25:11
第2楽章 11:24
第3楽章 03:55
第4楽章 12:06
第5楽章 24:47
◯ルドルフ・バルシャイ指揮ユンゲ・ドイチェ・フィル(2001)
※バルシャイ版
第1楽章 25:53
第2楽章 11:41
第3楽章 04:15
第4楽章 11:02
第5楽章 20:59
◯ダニエル・ハーディング指揮ウィーン・フィル(2007)
※デリック・クック版第3稿第2版使用
第1楽章 25:50
第2楽章 11:08
第3楽章 04:01
第4楽章 11:59
第5楽章 25:02
第10番全体を通して聴いて、
やはり聴き応えがあるのは、当然第1楽章です。
私にはマーラーの妻アルマの肖像のように思えます。

冒頭のヴィオラの旋律は、マーラーがついウトウトしつつ、
夢の世界に入り込むようなイメージなのでしょうか?
(勝手な想像でゴメンナサイ。)
非常に静謐で美しい調べは、まさにアルマとの愛の日々の回想なのでは?
しかし、不穏な調べが出てきて、絶叫調(ホラー映画級!)に到達するところは、
見てはいけないもの(=妻の不倫)を見た激しい心の叫びにも思えます。
青ひげ公の館?
それでも、愛さずにはいられない苦悩・・・
そして第2楽章以降に続きます。
それはまるで、マーラー版の「幻想交響曲」なのかもしれません。
ベルリオーズの幻想交響曲がどんどん悪夢にハマっていくように、
マーラーも煉獄やら地獄をさまよい続けるのかも・・・
第4楽章の最後と第5楽章冒頭の太鼓の音
(どちらかを省略して演奏されることもありますが)は、
天国または異世界の扉の音のようにも聴こえました。
幻想交響曲は魔女が跋扈する悪夢で終わりますが、
マーラーの第10番はこの世、そして妻との死別と、
来るべき救いの世界で終わります。
だからこそ、第1楽章「アダージョ」だけで終わっては、
全貌を知ることができないのでは、と思えるようになりました。
第4楽章には、「大地の歌」の引用がでてきますよ。
上記に挙げた版に順位をつけると・・・
(断りがない限りデリック・クック版です。)
1位:バルシャイ指揮ユンゲ・ドイチェ・フィル盤(バルシャイ版)
2位:ハーディング指揮ウィーン・フィル盤
3位:レヴァイン指揮フィラデルフィア管弦楽団盤
4位:ザンデルリンク指揮ベルリン交響楽団盤
5位:ラトル指揮ベルリン・フィル盤
でしょうか・・・
この曲が好きなら、1位〜4位までの盤は持っていて損はありません。
バルシャイ盤は録音も優秀で他の演奏よりも華やかな印象を受けます。
第1楽章だけとっても、もっとも甘美かもしれません。
にぎやかで雄弁です。
第5楽章は、実にたくましい響きがします。
これからもっと演奏されてもいい版だと思いました。
ハーディング盤は、キワモノとみられがちなクック版も、
ついに「古典」の評価を受けるにふさわしいものと認識されたのでは?
と思えるような、おそらく今後のこの曲の演奏の標準になるような盤になると思います。
全体的に幽玄なイメージです。
レヴァイン盤も美しい演奏です。
レヴァインといえば、健康的なエンターテイナーというイメージしかありませんが、
ここでは類稀な芸術性を十分に発揮しています。
ザンデルリンク盤も演奏、録音共に優秀です。
ラトル盤は期待していたのですが、少し期待外れな感じがしました。
そのうち第1楽章「アダージョ」だけの記事を書く予定です。 ちなみに、この第10番全曲盤は、残念ながら妻からは不評でした・・・(;д;)
(2015年4月11日追記)
「題なし」の及川様からコメントがあり、
インバル盤をオススメでしたので、
フランクフルト放送交響楽団を指揮した旧盤(1992)と、
東京都交響楽団を指揮した新盤(2014)をどちらも買い求めて聴いてみました。
旧盤
第1楽章 22:50
第2楽章 11:04
第3楽章 03:58
第4楽章 11:04
第5楽章 21:53
新盤
第1楽章 23:04
第2楽章 12:06
第3楽章 04:06
第4楽章 11:27
第5楽章 21:24
どちらも録音が優秀です。
しかし断然、SACDである新盤の方が迫力があります。
第4楽章最後と第5楽章最初の大太鼓ドン!!という響きは、
心臓に悪いかも・・・
彫りの深さはやはり新盤の方が優れています。
ただし、録音が鮮明なため、指揮者の唸り声まで克明に聞こえてしまいます・・・
(唸り声も音楽だ、とか、
グレン・グールドの演奏で「免疫」ができてるよ、というなら別ですが・・・)
旧盤では唸り声は聞こえません
(あるのかもしれませんが、少なくとも、気になりません。)。
旧盤は全体的に少しひんやりとした響きがします。
新盤は指揮者の汗が見えてきそうなぐらい熱い響きがあります。
ハーディングの指揮と比較するなら、
ハーディング盤は静、インバル新盤は動という感じかもしれません。
完全に情念とかドロドロさが消毒されて、
響きの美しさだけが残ったハーディング盤か、
適度に情念やドロドロ感が残されたインバル指揮か・・・
あとはお好みですね。
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