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2015年2月21日 (土)

映画「風立ちぬ」〜エンディングの「ひこうき雲」に落涙・・・

宮崎駿監督の長編引退作品「風立ちぬ」が、
2015年2月20日に日テレ系で地上波初放送されていましたので、
リアルタイムで観ました。
私は劇場公開時、なぜかそんなに観に行きたいとは思わなかったので、
今回のテレビ放映が初視聴となりました。

風立ちぬ(Blu-ray)

主人公の堀越二郎は、零戦を作った実在の堀越二郎の半生と、
堀辰雄の小説『風立ちぬ』からのエピソードが混合されています。
この2つを通して、実は宮﨑駿監督自身を描きたかったのかもしれません。
まさに、「宮﨑駿の、宮﨑駿による、宮﨑駿のための映画」といえましょう。
飛行(及び古風なメカ)、美少女、映像の緻密さという、
宮崎アニメの集大成が、大人向けに結晶しています。
宮崎アニメ=トトロやポニョのような子供向け、と考える人たちにとっては、
肩透かしを食らう作品です。
アニメならではのファンタジー性を活かしながらも、
(この作品で言えば、たとえば二郎の夢とカプローニの夢がつながるところなど)
小津安二郎や黒澤明のような映像表現を目指したのでしょうか・・・

主人公の声が、「エヴァンゲリオン」などで知られる庵野秀明監督なのが、
致命的な欠点かな、と思いました。
(声優としてよりも、本業の方で参加してほしかったかも・・・)
主人公に対して感情移入が難しいのです・・・
ある意味、主人公に対して思い入れができないからこそ、
映像表現がよく目立つ結果になっている、ともいえます。
実際、映画の細部は非常に見事です。
(関東大震災の描写や、飛行機が墜落していくところなど・・・)
もはや、単なるアニメというよりは、芸術作品の域に達しています。
しかし、それが感動につながっているかというと、はなはだ疑問です。

私としては、映画の3分の2を占める、二郎の飛行機への情熱のところよりも、
どちらかというとカットした方が良かったという評が多い、
薄幸の女性、菜穂子との恋愛と結婚、別れのエピソードの方が心ひかれました。
ただ、映画全体からすると、かなり違和感のある展開ですが・・・
サナトリウムにおける、野外での睡眠のエピソードは、
かなり前に読んだ、トーマス・マンの小説『魔の山』のシーンを思い出しました。
(実際、作品中でも『魔の山』への言及がありますが・・・)

トーマス・マン『魔の山』(上)岩波文庫版
(※私が読んだのは岩波文庫版。他に新潮文庫版があります。)

『魔の山』(下)岩波文庫版

映画では、あえて菜穂子の最期を描かなかったところは卓見だと思いました。
ラストシーン、夢の中で、菜穂子と二郎が再会するところは少し感動的ですが、
涙が出るほどのものではありませんでした。
なんだかよくわからない、中途半端なままのラストシーン?・・・

しかし・・・
エンディングにかかる、荒井由実(松任谷由実)の、
「ひこうき雲」が流れると、思わず落涙してしまいました・・・
「ひこうき雲」は1973年に発表された曲ですが、
実に見事なまでに、この映画を統合・総括する内容になっています!
歌詞に誰かの「死」が歌われています。
爽やかな曲なのに、暗い影があります。
この映画はまさに、最期のこの曲が流れるシーンのためにあるのでは・・・
そんな感じさえ抱いたほどでした。

映画「風立ちぬ」サウンドトラック(※「ひこうき雲」も入っています。)

もう一度観たい映画か、と言われると、私にとっては、
宮﨑駿の80年代、90年代の映画ほどの魅力はないので、
「機会があれば・・・」ぐらいにしか言えません。
しかし、アニメで往年の日本の巨匠の域に達することができた、
という面では、素晴らしい作品だと思います。
むしろ、何回も観ることによって、ジワジワと来る作品なのかもしれませんね・・・

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