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2014年2月22日 (土)

書評:池上彰著『世界を変えた10冊の本』(文春文庫)

書店で、池上彰氏の『世界を変えた10冊の本』(文春文庫)を見つけ、
少し立ち読みした後、面白そうだったのですぐ購入しました。

世界を変えた10冊の本 (文春文庫)

この中で取り上げられている、「世界を変えた10冊の本」とは・・・
●アンネ・フランク『アンネの日記』
●『聖書』
●『コーラン』
●M・ヴェーバー『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』
●マルクス『資本論』
●サイイド・クトゥブ『イスラーム原理主義の「道しるべ」』
●R・カーソン『沈黙の春』
●ダーウィン『種の起源』
●ケインズ『雇用、利子および貨幣の一般理論』
●M・フリードマン『資本主義と自由』

読んだことがあるのも、もちろんありますが、
名前や概略だけ知っているものも多いです。
サイイド・クトゥブ『イスラーム原理主義の「道しるべ」』は、
池上彰氏のこの本で初めて知りました。
世界をテロの恐怖に陥れている本なのですね。

私がこの中で読んだことがあるのは、
『聖書』、『コーラン』、『アンネの日記』、
『プロテスタンティズムの・・・』、『沈黙の春』の5冊です。
池上彰氏が、宗教や経済学の影響力を正当に評価しているのは賞賛に値します。
たとえば『コーラン』の章でいえば、成立等をポイントでまとめ、
そこからさらに「イスラム金融」の話にまで展開しているのは鮮やかな手際です。

意外だったのは、最初に取り上げられている『アンネの日記』です。
『アンネの日記』から、中東問題が出てくるとは・・・
本文から引用してみましょう。
(引用)
 なぜ、この本が「世界を変えた」のかと疑問の方もいらっしゃることでしょう。中東問題の行方に大きな影響力を持っているから、というのが、私の答えです。
 一九四八年五月、アラブ人が多数居住するパレスチナの地に、ユダヤ人国家であるイスラエルが建国されました。国連が、ユダヤ人たちの「自分たちの国家を建設したい」という要望を受け入れて、パレスチナを「ユダヤ人の国」と「アラブ人の国」に分割する案を採択したのにもとづくものでした。ここから中東問題が始まります。
 イスラエル建国に反対する周辺のアラブ諸国との度々の戦争を経て、イスラエルは、国連が採択した「ユダヤ人の国」の範囲を超え、パレスチナ全域を占領しました。
 これにアラブ諸国が反発し、中東問題は、こじれにこじれています。しかし、アラブ諸国以外の国際社会は、あまりイスラエルに対して強い態度をとろうとしません。ユダヤ人が、第二次世界大戦中、ナチスドイツによって六◯◯万人もの犠牲者を出したことを知っているからです。
 その象徴が、アンネ・フランクであり、彼女が残した『アンネの日記』です。『アンネの日記』を読んだ人たちは、ユダヤ人であることが理由で未来を断たれた少女アンネの運命に涙します。『アンネの日記』を読んでしまうと、イスラエルという国家が、いかに国連決議に反した行動をとっても、強い態度に出にくくなってしまうのです。
 イスラエルが、いまも存続し、中東に確固たる地歩を築いているのは、『アンネの日記』という存在があるからだ、というのが私の見方です。

(PP.17〜18から引用終)

日本のジャーナリスト達の例にもれず、
池上氏も単純に「パレスチナ=善」「イスラエル=悪」
みたいな思考があるのは残念ですが、
中東問題と『アンネの日記』を結びつけたのは慧眼ですね。
(最近出た本で、
中東問題研究家の滝川義人氏の
日本型思考とイスラエル――メディアの常識は世界の非常識』(ミルトス)を読むと、
反ユダヤ宣伝の巧みさがよくわかります。
立ち読みした限りでも、「なるほど〜」と思わされました。
そのうち購入して読んでみようと思っています。)

(参考)
日本型思考とイスラエル――メディアの常識は世界の非常識


『アンネの日記』といえば、最近残念なニュースがありましたね。
東京都内の複数の公立図書館で、
『アンネの日記』と関連本が合わせて294冊も、
何者かによって破損された、というものでした。
アンネの日記:関連本破損、東京の3市5区で294冊被害
(毎日新聞 2014年02月21日 20時57分)

「アンネの日記」破損問題、菅官房長官「きわめて遺憾」 ユダヤ人団体「速やかに犯人特定を」
(J-CASTニュース 2014/2/21 18:16)

犯人は不明ですが、
ユダヤ陰謀論の狂信者か、パレスチナ支持の人あたりではないでしょうか?
(もしかして、池上彰氏のこの本に触発されて?)
焚書坑儒の域を出ない、愚かな犯罪ですが、
米国のユダヤ人人権団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」が、
事件に対して声明を出すなど、国際問題に発展しかねないので、
早く真犯人が捕まってほしいものです。

『アンネの日記」の章では、政治的な話だけではなく、
芥川賞を受賞した赤染晶子作『乙女の密告』(新潮文庫)にも触れています。
その小説の中で主人公が『アンネの日記』で感動したところと、
主人公を指導する教授が『アンネの日記』で重要なところの相違が触れられています。
なるほど・・・

(参考)
アンネの日記(文春文庫)


赤染晶子『乙女の密告』 (新潮文庫)


池上彰氏が『聖書』について書いた記事では、
『聖書』のすばらしい内容に反して、
教会が犯して来た過ち(十字軍など)を指摘し、
最後に、
(引用)
 ユダヤ教徒の『律法』であり、キリスト教徒の『旧約聖書』である書物に書かれた「殺してはならない」という十戒。『新約聖書』でイエスの言葉として伝えられる「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」(「マタイによる福音書」)という文章があるのに、その後も数々の紛争、戦争は絶えません。『聖書』は、世界の歴史を大きく動かした書物ですが、人々が、それによってみんな聖人になれたわけではないのです。
(PP.69から引用終)
と締めくくっているのは、キリスト教徒である私にとっては、
耳の痛い話でした。
(あえて反論、というよりは言い訳するなら、
イエス様が「敵を愛せ」と言われても、
そうできない、聖人ならざる貪欲まみれの凡人だからこそ、
キリストの救いが必要なのです。
イエス様の言葉は闇夜に輝く北極星のようなもので、
進むべき道を指し示しますが、到達は難しいのでしょうね・・・)

政治・経済に強い池上氏らしく、最後は2冊の経済学の本を取り上げています。
ケインズとフリードマンの著作です。
フリードマンの新自由主義、自由至上主義を金科玉条のように祭り上げて、
結果、日本では格差が拡大してしまったわけです。
(もちろん、金持ちも増えましたが・・・
一方で、生活保護を受ける人がものすごい数になっているのは、
「豊かな国」日本の恥ではないでしょうか?
金持ちと貧乏人が減り、中産階級が増えることこそ、
日本の政治経済再生のカギだと思います。)

その考えを支持するかどうかはともかく、
少なくとも、池上彰氏のこの本レベルの知識は得ておく必要があると思います。
コンパクトながらも、世界の「今」を築いている10冊の本について概略を知る、
ガイドブックとなる良書だと思いました。

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