映画「ルルドの泉で」(原題:LOURDES)と「ソウル・サーファー」(Soul Surfer)〜奇跡を考えさせる2作品
芸術の秋、「奇跡」を考えさせられる対称的な映画を2つ観ました。
フランス映画「ルルドの泉で」(原題:LOURDES 2009)と、
アメリカ映画「ソウル・サーファー」(Soul Surfer 2011)です。
ルルドの泉で(DVD)
ソウル・サーファー(DVD)
「ルルドの泉で」は、カトリックの聖地の一つ、
フランスのルルドでのある巡礼団の様子をドキュメンタリー風に綴っています。
この作品についていろいろなレビューが書かれていますが、
あえて先入観なしに、旅行番組でも観るかのように観た方がいいかもしれません。
実際、ルルドの様々なところを、あたかも実際に自分も巡礼団の一員として、
旅しているかのような感じになります。
私の妻は、「トラベリックス(BS日テレの旅行番組)みたいな感じだ」
と述べていました。
ストーリーを要約していえば・・・
多発性硬化症で首より下が動かなくなってしまった若い女性が、
マルタ騎士団のルルド巡礼ツアーに参加し、
何度かルルドの泉を浴びたりしているうちに、
歩けるようになる、という話です。
ただ、映画の主眼は、奇跡が起こった、バンザイ!ではありません。
「聖地」ルルドの俗っぽさ(何度も「みやげものsouvenir」の場所が映る)、
あまり信仰心の篤くないような女性に与えられた奇跡を通して、
同じ巡礼団の人々に起こる嫉妬心(なぜ私やあの信仰深い人ではなく、彼女?)、
言葉にならない複雑微妙な感情、
そういったものが、緻密なカメラワークを通して、
監督が訴えたかったもののようです。
与えられた奇跡を、ただ単に自分の快楽のために使うのか、
それとも、信仰を深め、他の人の信仰の助けになるよう使うのか・・・
映画ではそこまで描かれていませんし、
少なくとも癒やされた
(これも完全な治癒なのかどうかは、映画では描かれていません)主人公は、
他の人を思いやることもなく、より熱心に祈るわけでものなく、
登山や同じ巡礼団の男性との恋、ダンスなどに使って終わりでした。
(映画中のバスに乗るシーンでは、
「早く働きたい」みたいなセリフがありましたが・・・)
この映画では、人間の心の闇が、
わずかなセリフと動作(目配せ等)で描かれています。
素直に人の喜びを喜ぶことができない心、
せっかく起きた奇跡を疑う心、
奇跡が終わることを望むような心・・・
また、ルルドの奇跡を認定する医局の医者の言葉も実に冷たいものでした。
(非公式に、癒されたとされる人は何千人といるようですが、
教会によって公式認定された奇跡は150年以上経っても
70件にも満たないものです。)
この映画の登場人物たちに欠けるのは、
聖書の言葉を借りれば、
「喜ぶ人と共に喜び、泣く人と共に泣きなさい。」
(新約聖書ローマ人への手紙12:15新共同訳)でしょう。
ルルドという特別な場所でなくとも、
たとえばキリスト教会(カトリック・プロテスタント問わず)においても、
特別な「賜物」や奉仕の才能を持つ人への嫉妬は日常茶飯事です。
人間は、
「無条件の」愛や奇跡というものを居心地悪いものと感じるものではないでしょうか。
むしろ、働いたことへの対価としての「報酬」を喜ぶものです。
映画では、「なぜ私やあの信仰深い人ではなく、あの娘なのか」というのが、
後半の大きなテーマとなります。
「信仰深さ、信仰熱心さ」というものへの対価としての「奇跡」は、
実は「報酬」にほかなりません。
だからこそ、カトリック教会では「信仰による義」よりも、
「善い行い」が強調されるのでしょうね・・・
(そちらの方がわかりやすいから・・・)
※「善い行い」が不要だ、というつもりはありませんが、
救いの条件ではないことは聖書的に確かです。
余談ですが、20年近く前に、私はルルドに行ったことがあります。
キリストよりも巨大な聖母とか、かなり違和感を持ちましたが、
(本来のキリスト教とは別なものになってしまっています・・・)
車椅子の人やいろいろな病人・障がいを持つ人が、
実に大切にされて町を歩けるということこそ、
ルルド最大の奇跡なのではないかと痛感しました。
話は変わって、「ソウル・サーファー」の方へ移りましょう。
実在のサーファー、ベサニー・ハミルトンさんの実話に基づく映画です。
将来有望なサーファーとして輝かしい未来が待っていると思われた時に、
サメに左腕を喰われてしまう、という不幸が襲いかかります。
13歳の時でした。
しかし家族や周りの人の励ましなどにより、
事故後それほど経たないうちにサーフィンを再開しました。
彼女の諦めない姿、挑戦する姿は世界中の多くの人を励ましました。
映画では超自然的なことは何も描かれませんが、
これこそ本当の「奇跡」なのではないでしょうか?
映画では教会や聖書の話も出てきます。
事故の前に、教会の伝道師が語る御言葉が印象的でした。
「わたしは、あなたたちのために立てた計画をよく心に留めている、と主は言われる。それは平和の計画であって、災いの計画ではない。将来と希望を与えるものである。」
(旧約聖書エレミヤ書29:11新共同訳)
北森嘉蔵の言葉を借りれば「破壊を通しての守護」というものでしょう。
(詳しくは北森嘉蔵『聖書の読み方』(講談社学術文庫)の、
「詩編第一◯五篇―ー破壊を通しての守護」(PP.56〜67)参照)
北森嘉蔵『聖書の読み方』(講談社学術文庫)
ベサニー・ハミルトンさんとその家族を支えた神への信仰、という観点で見ると、
この映画はクリスチャンの方を力づけるものとなります。
信仰という視点抜きでも、
迫力あるサーフィンの映像、
主人公を演じるアナソフィア・ロブの美少女ぶりは魅力です。
最後のシーンでは、ベサニー・ハミルトンさん本人の映像も出てきます。
なお、原作本も日本で出ています。
ソウル・サーファー―サメに片腕を奪われた13歳 (ヴィレッジブックス)
ただ単に病気が癒やされたとか、
水がぶどう酒になる、といった不思議な現象(異象)が起きたかどうかではなく、
その現象を通して、より神を求めるようになるもの、
人々に神の現存を証するものこそ、本当の奇跡といえるのではないでしょうか?
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