書評:古屋安雄著『キリスト教新時代へのきざし―1パーセントの壁を超えて』(オリエンス宗教研究所)
キリスト教書店に立ち寄った際、少し立ち読みして興味深いと思い、
買ってしまった本です。
古屋安雄著『キリスト教新時代へのきざし―1パーセントの壁を超えて』です。
著者は、国際基督教大学名誉教授、聖学院大学名誉教授、
日本キリスト教団正教師(牧師)という肩書からして、
ミスター・プロテスタントといった感があるのですが、
この本の出版は、なんとバリバリのカトリック系出版社、
「オリエンス宗教研究所」です。
(カトリック教会の毎週のミサで使われている、
「聖書と典礼」を発行しています。)
オリエンス宗教研究所で発行されている雑誌
「福音宣教」で掲載された記事をもとにしています。
本の帯には、「正統主義(オーソドキシー)から正しい実践(オーソプラクシー)へ」
と書かれていました。
さて、本書の主張は、次のようなものでしょう。
①キリスト教が日本で広まらなかったのは、
明治期に庶民層からではなく、士族などの知識階級から入ったため、
インテリ層にしか広がらなかった。
②戦時中、カトリック教会とプロテスタント各派は国家神道に屈し、
戦争協力した。
③日本の礼拝は、喜びがない。
④福音派・聖霊派に見られるような「リバイバル」至上主義=個人の救いではなく、
クリスチャンホームを築くことが大事。
⑤正統主義(オーソドキシー)から正しい実践(オーソプラクシー)へ〜
憲法第9条を守る、積極的な社会貢献をするなどの実践が必要。
①と②については、確かにそのとおりだとも思いますが、
あたかも「あなたの病気は遺伝性のものですよ、不治の病です」
と医師から宣告を受けるようなものです。
過去だから、我々はどうすることもできないですね。
③も、ごもっともだと思います。
お葬式みたいな厳粛な礼拝がいかに多いことか・・・
(引用)
私が問題にしたのは、内村鑑三の「武士道に接木されたキリスト教」が世界最善の産物である、という考え方である。私がアジア学院の校長をしていた時に、研修生、特にアフリカからの研修生が日本の教会の礼拝について言った言葉が忘れられない。「お葬式のような、喜びのない礼拝に出るよりは、一人で祈り、賛美しているほうがよい」。
お葬式のような厳粛な礼拝、喜びのない礼拝というのは、牧師たちが武士の子弟だったからではないだろうか。武士というのは、「武士は食わねど高楊枝」のように、感情を直接出すことをはしたないと考えた。(中略)
礼拝はまず「福音」、すなわち「よいニュース」を聞く時なのに、そして礼拝の招詞(中略)では「喜べ」と言っているのに、しかつめ顔で言う。一つもうれしい顔をしていない。説教では「笑ってはいけない」、礼拝は厳粛なものであるべきとされた。
(PP.22〜23から引用終)
主を喜び祝うことこそ、あなたたちの力の源である。
(旧約聖書ネヘミヤ記8:10新共同訳)
先日久しぶりに、所属教会ではないある教会に行きました。
賛美のすごさに圧倒されました。
「お葬式」礼拝の対極とも言えるものでした。
(まぁ、「心の」高齢者には、
「お葬式」礼拝もいいのかもしれませんが・・・)
礼拝がイキイキとしたものであるべき、という主張は当然です。
④については、
未だに、クリスチャンを増やす=トラクトを撒いたり、
大規模な伝道集会を開く・・・というイメージが、
教会指導者(特に福音派・聖霊派)に強くあります。
韓国の教会のマネをしてみたら、24時間連続祈祷をすれば・・・
伝道を「保険の勧誘」のように考えてみればわかりやすいかもしれません。
新規飛び込み営業をするよりは、既にある契約(既契約)を大事にして、
新たな契約に結びつけた方が確実です。
そういう顧客なら、新たな客を紹介してくれるかもしれません。
一方、キリスト教会(カトリック・プロテスタント)はどうでしょうか?
カトリックの大半の教会のように、新参者に冷たい態度をとるところや、
(さすがに聖職者は別のようですが・・・)
福音派・聖霊派のように最初は「ラブシャワー」を浴びせて、
洗礼を受けるや否や、
あとはノルマのように「伝道、伝道!」とたたみかけてくる・・・
いずれも、既に教会を離れた人に対しては冷たいものです。
ところで、道端で伝道するよりも確実にクリスチャン人口を増やすには、
既に教会を離れた人や、教会員の未信者の家族が教会に来るようになることです。
たぶん、伝道のシフトを個人伝道から家族伝道に移すだけで、
あっという間に何万人もの人が教会に集うようになるのではないでしょうか?
幸福な結婚、幸福な家庭生活・・・
こういったものを、聖書から学ぶようにし、
実際に実践している夫妻・家族を紹介する。
人は神学に大して興味を抱きませんが、
具体的な目に見える幸福には心動かされるはずです。
⑤については、結構矛盾があると思います。
よく、共産党やリベラル派のクリスチャンが、
「憲法第9条を守れ!」と叫んでいますが、
そのくせ彼らは憲法第1条には大いに不満です。
できれば皇室を亡き者にしたいと願っていながら、
憲法第9条「だけ」を守れ!と主張するのは矛盾です。
現憲法を守れ、憲法改正反対!と主張するならば、
ぜひ皇室への尊敬を持っていただきたいものです。
著者は、プロテスタント系大学の学長に、
カトリック信徒の方が就任するケースが出てきたことをとらえ、
よい傾向としています。
エキュメニズムについては賛否両論あるでしょうが、
少なくとも一般の人にとっては、
カトリックかプロテスタントかなんて、実はドーでもいいことなのです。
一致できるところは一致して、互いを罵りあわずに協力していくことこそ、
今後の宣教にとって大事なことだと思います。
父よ、あなたがわたしの内におられ、わたしがあなたの内にいるように、すべての人を一つにしてください。彼らもわたしたちの内にいるようにしてください。そうすれば、世は、あなたがわたしをお遣わしになったことを、信じるようになります。
(新約聖書ヨハネによる福音書17:21新共同訳)
結論から言えば、この本は、
私にとっては賛同するところも多いですが、違和感を抱く処も多いです。
とはいえ日本の伝道の未来像を考えたい方にはオススメです。
(確実に入手するなら、出版社HPから購入するか、
キリスト教書店で購入することをオススメします。)
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