書評:中野太郎『エルサレム ダビデのカナン統一』(Canaan unification by David)(幻冬舎ルネッサンス)〜戦国武将・スーパーヒーローとしてのダビデ
確か先月(2013年7月)頃でしたでしょうか。
読売新聞の広告でこの本の事を知りました。
中野太郎さんの小説『エルサレム ダビデのカナン統一』(幻冬舎ルネッサンス)です。
kindle版なら1000円以下です。
全528頁と、かなりぶ厚い本ですが、
私は1日で読み終えることができました。
旧約聖書の代表的人物、ダビデの半生を描いた作品です。
序盤の展開は、概ね聖書の記述を要領よくまとめた感じがありましたが、
だんだん聖書の記述からは自由になり、
戦国武将や三国志の英雄、あるいはアーサー王伝説に出てくるような英雄、
スーパーヒーローとしてのダビデが描かれる展開となります。
超人的な身体能力で敵軍をバッサバッサ切りまくっていく姿・・・
そして、カナンの地(現在のイスラエルとその周辺国)を次々と平定し、
「天下統一」していくところは、聖書の知識がなくても十分堪能できます。
読んでいて、ダビデの姿とNHK大河ドラマ「風林火山」に出てくる、
Gacktさんが演じる上杉謙信の姿がなんとなくダブって見えました・・・
クリスチャンにとっては、スーパーヒーローのダビデよりも、
信仰者としてのダビデ、失敗・失態があってもなおも民に慕われ、
神を慕い求めるダビデの方がなじみ深いので、
ダビデがどの地域まで治めたとか、あまり重要視していなかった面がありました。
確かに、旧約聖書のサムエル記下8章・10章を読むと、
小説に描かれている戦闘と戦績について言及があります。
また、小説では終盤でダビデの将軍の一人、エルハナンが活躍しますが、
この人物、聖書の中でわずか4箇所にしか出てきません。
たった4行からよくこれだけイキイキとした人物像を描けたものだと感心しました。
(4箇所ある、といっても、実質上2行程度です。
サムエル記下と歴代誌上でだいたい似たような記述があります。)
考古学的に見て、あるいは聖書の記述から見て、というのをさておき、
小説として評価してみると・・・
私は聖書によく親しんでいるので、ダビデを戦国武将のように描くやり方には、
新鮮味を覚えました。
あえてバッサリ、ユダヤ的習慣とかに言及しない潔さが、
わかりやすさへとつながっています。
(その分、宗教性はほぼ皆無になっていますが・・・)
ただ、表現としては、
敵の武将の首を刎ねる時の表現が類型的・マンネリ化しているのが少し残念です。
英雄のその後まで書いていたら、なお深みがあったと思われますが・・・
エンターテイメント小説としては十分合格点ではないでしょうか?
なお、聖書の記述通りで、小説として聖書(特に旧約聖書)を楽しみたいのであれば、
中川健一さんの『日本人に贈る聖書ものがたり』
(文庫本で全8巻)が断然オススメです。
聖書の世界がイキイキと描かれ、なおかつ日本人にわかりやすいように、
日本の歴史上の人物の例や、日本の文化習慣との対比という考察が、
理解を一層深めてくれます。
私は一度全部を読みましたが、
この『エルサレム ダビデのカナン統一』を読みおわってからまた読んでみたくなり、
1巻から読み直し始めています。
日本人に贈る聖書ものがたりI 族長たちの巻 上 (文芸社文庫)
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