NHKEテレ・佐村河内守 魂の旋律~交響曲第1番“HIROSHIMA”~(2013年4月27日放送)〜障害者の芸術、というカテゴリーではなく・・・
今や時の人となった佐村河内守さんと、
大作「交響曲第1番HIROSHIMA」。
2013年4月現在、交響曲としては異例の、
CDアルバムヒットチャートベスト10入りを続けています。
(2013年4月初めで、累計12万枚売れたとか・・・
→“現代のベートーヴェン”佐村河内守さん、交響曲CDが12万枚突破!
2013.04.05)
2013年3月31日放送のNHKスペシャル、
「魂の旋律~音を失った作曲家~」やNHKでの何回かの特集番組、
果ては2013年4月26日放送の「金スマ」まで、
多方面にわたって取り上げられていますね。
そしてついに、NHK視聴者の要望にこたえて、
「佐村河内守 魂の旋律~交響曲第1番“HIROSHIMA”~」として、
2013年4月27日に全曲がテレビ放映されることになりました。
大友直人さん指揮、日本フィルハーモニー交響楽団の演奏、
東京芸術劇場で2013年2月25日に収録されたものです。
私も2013年3月31日のそのNHKスペシャルを録画して観ました。
想像を絶する苦労の中での作曲には頭が下がる思いです。
(CGを駆使しての創作の解き明かしや、
玉川大学の野本由紀夫教授他の解説もよかったですが・・・)
しかしあえて、
今回の全曲放送を視聴する際には、
佐村河内守さんがどのように作曲をしているか、
どんな障害があるか、そういうことはきれいさっぱり忘れて、
先入観なしで聴くことに努めました。
なぜなら、このような作品は既に「障害者が作った」という範疇ではなく、
一介の芸術家の作品として評価すべきと考えたからです。
たとえば、ベートーヴェンの音楽を考えてみましょう。
ベートーヴェンが難聴だったのは非常に有名ですね。
(聴覚障害があった大作曲家としては、
他にフォーレとスメタナが知られています。)
「第9」の作曲の頃にはほとんど聞こえず、
会話はもっぱら筆談によっていました。
しかし、ベートーヴェンの音楽を聴いている限り、
彼が難聴だったかどうか(障害があるかないか)など、
まったくどうでもいいことなのです。
まさに普遍的な価値を持つ作品群だからです。
「障害者の作品」といった小さなカテゴリーに入らないのは明らかでしょう。
一方で、たとえばノーベル賞作家・大江健三郎さんの子息、
大江光さん(知的障害者)の作曲というのを聴いたことがありますが、
きれいではあるものの、
これは「障害者の芸術」という範囲かな、と思います。
演奏家の例でも考えてみましょう。
辻井伸行さんや梯剛之さんといったピアニストにしても、
全盲にも関わらずピアノが弾けるということよりも、
一流の演奏をするから素晴らしい訳です。
(もっとも辻井伸行さんに関しては、まだまだこれからかな・・・とも思いますが)
障害の有無よりも、普遍的な芸術性を持っているかどうかが大事な訳です。
障害があるけれども演奏活動しています、という同情を求めるような活動なら、
「障害者の芸術」という範囲にとどまります。
作曲者の父親が有名人でなければ、
たぶん世に出て来なかったと思われる程度だからです。
前置きが長くなりましたが、
そういう訳で、先入観をあえて捨てて、一つの芸術作品として、
この「交響曲第1番HIROSHIMA」を聴いた感想を書きます。
(ついでに言えば、作曲者が被爆二世というのも考えないことにしました。)
感動を求めるなら、
第3楽章の終わり10分ぐらいのところ(演奏開始から70分ぐらい)
から聴き始めるといいでしょう。
祈るような美しい長調の調べが展開されます。
この部分はさすがに美しいな、と思いました。
「G線上のアリア」や「アダージェット」のような響きです。
映画のクライマックスを想起させるような感じでした。
CMや映画でも使えそうかもしれません。
いわゆる「現代音楽」の難解さはありません。
ブルックナーやマーラー、
ショスタコーヴィチなどの交響曲の延長線上にあります。
(そういう意味では、吉松隆さんの交響曲も聴きやすいですね。
彼は「現代音楽」の難解さではなく、美しい調べの回復を目指した先駆者といえます。)
第3楽章の最後以外でも、
部分的に、美しい響きが時折出てきます。
迫力ある響きを堪能することもできます。
しかし、冗長なところが多いかな、とも思います。
特に第2楽章あたりはもう少しスリム化して、
短くした方がいいのでは、とも思いました。
(たとえば楽章を途中で分けるとか・・・
第2楽章でいえば、コントラバス群のうめきから、
トロンボーンなどの金管楽器群が鎮魂の調べを奏でるところあたり
(曲が始まってから40分前後のところ)で、楽章を分割するとか、
工夫ができるかも、とも思いました。
作曲者の苦悩の人生を知らず、ただ音だけ聴けば、
マーラーやショスタコーヴィチの交響曲に劣らない充実さを持っていますが、
感涙にむせぶようなものは、少なくとも私には感じられませんでした。
(テレビで映されていた、演奏後の客席で涙を拭う観客の姿とか・・・)
一方、同時代の日本人作曲家として、
このような作品を書けたのはすごいということを素直に認めます。
あえて冷水を浴びせるようなコメントになってしまいましたが、
みなさんはいかがでしたでしょうか?
佐村河内守:交響曲第1番 HIROSHIMA
交響曲第一番 [単行本](佐村河内守著)
シャコンヌ ~佐村河内守 弦楽作品集
※Amazonの試聴を聴いただけですが、
聴きやすいながらも豊かな音楽性を感じられるような作品群かもしれません。
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障害や被爆については論ぜず(作品解釈の上では作曲家の背景を知ることには意味はある)、まずは作品をニュートラル状態で聴くというのはわたくしも重要だと考える。
その作品、剽窃とは言わないまでも、多数の作曲家の作風をかなり引っ張ってきているのは感心できない。コーダはマーラーの世界(イメージやアイデア)をまるっぽ借用していると言っていい。これはせいぜい作曲家初期の習作という程度の扱いでいいのではないか。
しかし、周到なコマーシャリズムによって歪な人気になってしまっているのが現状。
日本の正統な音楽文化が破壊されていくことを憂う。まともな音楽家がもっと正しく評価されるべきだ。まともな聴衆を育てるべき。
投稿: さや | 2013年5月 7日 (火) 22時37分