書評:牧野恭仁雄著『子供の名前が危ない』(ベスト新書)〜キラキラネームをつける親の深層心理とは?
世に「はびこる」キラキラネーム(珍名・奇名)。
さまざまな批判がありますし、私も否定的にしかとらえられません。
(過去何度か記事にしたことがあります。)
⇒キラキラネームと交ぜ書き~小学校での漢字指導と命名の法規制
⇒DQNネーム検定
⇒ビューティフル・ネーム?
牧野恭仁雄著『子供の名前が危ない』(ベスト新書)は、
日本に増殖している珍名・奇名についての分析と、
名付ける側である親の心理を、統計的な資料を使ってひもとき、
また、著者自身の体験(著者自身も珍名・奇名に入ります)から、
見事に解き明かした好著です。
前半に出てくるキラキラネームのオンパレードには、
思わず爆笑してしまいました。
さて、本書の「帯」に出てくる名前からクイズを出してみましょう。
「与夢」で「あとむ」(男)。
「新千絵」で「にーちぇ」(女)。
「夢大」で「さんた」(男)(ここまでで十分ヘン!)
「空海」で「そらみ」(女)。
では、「雄」くんは?(正解は本書P.19でどうぞ!)
※ヒントは、「猛獣」です!
P.4〜5では、20のキラキラネームが書かれています。
まずこれで小手調べ。
私は・・・20問中2問だけ(も?)正解でした。
(1問でも当たるだけで、ある意味嘆かわしいのかも?)
P.18〜19では、もしあなたが小学校1年生の学級担任を受け持つと仮定して、
名簿を見たらキラキラネームばかりだったら・・・というのが書かれています。
早晩、学級崩壊は必至かもしれませんね・・・
第1章が「めずらしい名前など、めずらしくない」とつけられているのは、
とても巧みで適切だと思いました。
第2章は、「名前は子供の人生を決めるのか」と題して、
キラキラネーム(著者は一貫して「珍奇ネーム」と呼んでいます)の子が、
大きくなってからの社会的不都合
(最近では名前だけで就職試験に落とされることさえあるそうです。)や、
果ては男なのに女の名前を付けられたと思い込んだ息子が、
父親を殺害するという痛ましい事件まで紹介しています。
第3章〜第5章こそ、本書の核心です。
明治安田生命が長年統計を取っている、子供の人気ネーム。
たとえば戦時中、戦況が不利になればなるほど、
「勇」とか「勝利」、「進」といった、
戦争の勝利を願うような名前が増えたそうです。
(P.63〜66参考)
また、戦前〜戦後の食糧難の時代には、「茂」、「豊」、「実」といった、
豊作を願う名前が増えたとのこと。(P.66〜68参考)
では、「幸子」、「節子」といった、
貞節や幸福を願う名前に人気があった時代は?
(本書P.68〜70参考)
最近では、キラキラネームの類は別として、
自然に関する名前が多くなっているそうです。その背景は?
(P.82〜84参考)
第4章「奇抜な名を生む深層心理」は、本書の白眉です。
特に著者の名前にまつわるエピソードとその分析は圧巻です。
(P.119〜125)
思わず胸を打たれました・・・
第5章は、これから親になる人と教育者ならぜひ読んでほしいところです。
「名前の読み方は自由なのか?」ということへの根本的な問いかけです。
たとえば「愛」を「あい」ではなく、「あ」とか「い」とか「う」とか、
勝手に読ませるとキリがないですね。
間違った読み方がいつの間にか「正しい」読みになってしまうこともありますが、
今の名前の読ませ方の異常さは完全に文化破壊といえます。
本書から得た大きな知見としては・・・
・名付けには親の欠乏感・劣等感・無力感が反映されている場合が多い。
特に珍名・奇名は顕著。
名前を通して世相と親の心理の関係を見事に読み解いた、
楽しく読みやすいけれどもいろいろと考えさせられる本です。
ところで、著者の名前は、果たしてなんと読むのでしょうか?その由来は?
興味がある方はぜひ手にとってみてください。
子供は親のペットではありません。
いつかは自立していく存在です。
自分の所有物と思って、好き放題でデタラメな当て字の名をつけるのは、
既に虐待・束縛の第一歩なのかもしれません。
キラキラネームは日本文化を壊すのでは?!
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