人の死なないミステリ読み比べ〜松岡圭佑『万能鑑定士Qの事件簿』Ⅰ・Ⅱ・Ⅹ(角川文庫) VS 三上延『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫)
二十歳過ぎてからは、あまり小説を読まなくなった私ですが、
最近、面白いと思って読んでいる小説シリーズがあります。
松岡圭佑『万能鑑定士Qの事件簿』シリーズです。
(正しくは「Qシリーズ」というそうですが・・・)
数年前、東京に行った時に、電車・地下鉄の中吊り広告等で、
ちょっと怖そうな絵と、
「面白くて知恵がつく 人の死なないミステリ」というキャッチフレーズを見かけて以来、
気にはしていたものの、読む機会はありませんでした。
(ミステリ=殺人事件のはずなのに、
「人の死なないミステリ」というのが、ひっかかりました。)
最近、教会学校の小学校高学年〜中学生向けに、
マンガだけでなく、小説も読ませたいと思うようになりました。
マンガならある程度知っているので目が利きますが、
ティーン向けの小説って、何がいいんだろう?と考えました。
『ソードアート・オンライン』とかのアニメ化されているライトノベル(ラノベ)等を
幾つか立ち読みしてみましたが、
私自身がどうもその文体に入っていけないのです・・・
あるいは、『俺の妹が・・・』とかその類だと、
エロ要素が結構あり、却下でした。
(エロとグロは教会には不向きです。
その他に、超能力とかエクソシストとかのオカルト要素ものや、
「神様」になってしまう類の話も不可ですね・・・)
そこで思い出したのが、『万能鑑定士Q』のシリーズでした。
(もう1つは、『氷菓』シリーズでしたが・・・)
少し立ち読みしただけで、「面白そう!」と直感しました。
知性と教養を尊ぶ姿勢が随所にみられますし、
何よりストーリー展開が巧みです!
約300頁、様々な分野の薀蓄に驚嘆しながら、
たくさんある伏線を手繰り寄せての謎解きを楽しみました!
万能鑑定士Qの事件簿 I (角川文庫)
万能鑑定士Qの事件簿 II (角川文庫)
万能鑑定士Qの事件簿X (角川文庫)
Ⅰ・Ⅱの力士シールからハイパーインフレへの話の飛躍は、
わずかな隙間からの漏水が洪水を引き起こすような感を抱きました。
ハイパーインフレの狂乱の描写は、
新約聖書の「ヨハネ黙示録」の一節を連想しました。
わたしは、四つの生き物の間から出る声のようなものが、こう言うのを聞いた。「小麦は一コイニクスで一デナリオン。大麦は三コイニクスで一デナリオン。オリーブ油とぶどう酒とを損なうな。」
(新約聖書ヨハネの黙示録6:6新共同訳)
(※1コイニクス=約1。1L、
1デナリオン=古代ギリシャ・ローマ時代の1日分の賃金⇒現代なら約1万円ぐらい)
⇒小説では、週刊少年ジャンプが数千円とか、
東京→沖縄の片道運賃が数十万円になる、といった描写が出てきます。
読んでいて「へぇ〜」と思う知識がたくさんあるのですが、
その中でも「!!!」と思ったのが、
Ⅹ(Ⅰ・Ⅱの直接の続きに相当する)に出てくる、
「二桁どうしの数字の掛け算で、
十の位が同じ・一の位が足して10になる場合、
答えは簡単に出せる」(今手元にないので何頁か忘れましたが・・・)
というところでした。
(例)74☓76=5624
(7×8=56、4☓6=24)
仕組みはぜひ小説でお読みください。
主人公の凜田 莉子の描写はいろいろと出てきますが、
恋愛関係にならないところがかえって好都合です。
劣等生だった主人公がいかにして論理的思考と広範囲な知識を身につけたのか、
小説とはいえ、若い世代には生き方のヒントになるかもしれません。
これなら、小学生には少し難しいものの、
中学生以上ならオススメできる作品です。
まだ全シリーズを読んではいませんが、
そのうち全巻踏破をしたいと思っています。
余談ですが、確かにこのシリーズ、殺人の話は出て来ませんが、
ハイパーインフレによる治安悪化の際に、
結構「犠牲者」が出ていたのでは、と勘ぐってしまいました・・・
あと、表紙の絵はあまり好きではありません・・・
「Qシリーズ」のついでに手を出してみたのが、
2013年1〜3月の「月9」ドラマ化された、
三上 延 『ビブリア古書堂の事件手帖』(メディアワークス文庫)です。
表紙の清楚な女性像は魅力的ですね。
最初の20頁くらいまでは、なかなか作品に入り込めませんでしたが、
ヒロインである栞子さんが出てくるところあたりから、
急に物語が白黒からカラーになったような展開となり、
ようやくその世界に踏み入ることができました。
「Qシリーズ」は国家を揺るがすような大事件に取り組んだりしますが、
「ビブリア」の方はまさに私小説の世界です。
「第四話 太宰治『晩年』(砂小屋書房)」でようやく、
少しミステリらしい展開になりますが、ささやかなスケールです。
本が大好きだが人と接することが苦手で、入院中の栞子さんと、
本が読めない「体質」だが本の話を聴くのが好きで、
動きまわることができる主人公の青年。
相補いあう二人のやり取りで物語は展開されます。
祖母の死とかの話は出てきますが、
少なくとも1巻では殺人事件は出て来ません。
主人公の五浦は、我々読者の代表のような存在でしょうね。
こちらは角川と講談社でマンガ化されていますし、
剛力彩芽さん主演のドラマが放送されていますね。
しかしあえて言えば、下手に映像・視覚化しないで、
各人がそれぞれ「栞子さん」を思い描いた方がいいのでは、
と考えます。
書店で「お試し読み」として、
講談社版の「ビブリア」のマンガ版がありましたので、
少し読んでみました。
小説版の清楚なイメージを壊す感じがしました。
また、剛力彩芽さんがドラマでは栞子さんを演じていますが、
小説表紙のロングヘアと
剛力彩芽さんのショートカットヘアではかなりイメージが異なりますし、
あまり役にあっていないのでは、という印象を受けました。
(松下奈緒さんあたりなら、ピッタリかも?)
ともあれ、こちらも気づけばすっかり魅了されてしまいました。
中学生向けとしては?かもしれませんが、
本好きな子なら、案外大丈夫かもしれません。
古書を通して、読書の世界を広げるきっかけになるといいですね。
鎌倉が舞台なのも少し魅力的でした。
謎解きは少しご都合主義かな〜とも思いましたが、
ヒロインの魅力に免じて目をつぶることにしましょう。
現在2巻目を購入し、そのうち読む予定です。
最初の部分だけ少し読むと、
「巨乳」云々の記述が出てくるのが少し残念・・・
ちなみに、私は中学生の時に、よく古本屋巡りをしていましたよ。
星新一の作品を全部集めるためでした・・・
(しかし、中3の冬に『赤毛のアン』を読み始めてから、
古本屋巡りはやめて、ひたすら新品で買うことにし、今日に至っています。)
ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)
(参考)
ビブリア古書堂の事件手帖(1): 1 (アフタヌーンKC) ※マンガ
ビブリア古書堂の事件手帖 (1) (カドカワコミックス・エース) ※マンガ
結論としては、中学生ぐらいにオススメなら、
「ビブリア」よりも「Qシリーズ」を私は選びます。
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