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2012年8月31日 (金)

書評:福嶋隆史著『国語が子どもをダメにする』(中公新書ラクレ)~国語教育は何のために行うのか?

タイトルから刺激的な本です。
福嶋隆史氏の新著『国語が子どもをダメにする』(中公新書ラクレ)。

国語が子どもをダメにする

小学校6年間全5645時間のうち、国語科に割り当てられた時間は?
本書P.13~14によると、約26%(実際には1461時間)とのことです。
つまり、全授業のうち、約4分の1を国語科にあてることになっているのです。
しかし・・・
ここから、本書の辛辣な文章を引用します。
(P.15から引用)
 もし、全授業の五分の一以上に当たるこれら国語の授業がひどい内容だったら?
 教師が何も指導しない「放任授業」だったら?
 活動主義の美辞麗句に先導された「お遊び授業」だったら?
 そう考えると、ぞっとする。
 そのぞっとするような授業が、今の日本の学校国語の主流なのである。

(引用終)

著者の福嶋隆史氏は、元小学校教師で、
現在では「ふくしま国語塾」を主宰しています。
よって、大学教授が行う机上の空論とは違う、発言の重みがあります。

授業時数が多い=もっとも大事な教科とするならば、
国語科はあらゆる教科の「王」のような存在です。
しかし、国語科ほど、指導法が確立していない教科は他にありません。
著者はまず一例として、音読指導をやり玉にあげています。
(P.18~24)
そして、小学国語科の最大の問題点である、
「国語科は道徳なのか?」を指摘しています。

戦争の悲惨さを訴えるような作品(例:『ちいちゃんのかげおくり』、『一つの花』・・・)で、
これでもかと道徳を押し付けてくる現在の国語科教科書・・・
本書でも触れていますが、
教科書編集委員の一人である、石原千秋氏の『国語教科書の思想』(ちくま新書)では、
日本における国語教科書は道徳教育である」と断じているそうです。
(『国語教科書の思想』は2012年8月末現在、未読です。)

国語教科書の思想

戦後の一時期、日本では学校での「道徳」授業がありませんでした。
戦前の「修身」を否定するためでした。
昭和33年(1958年)には「道徳」が特設されました。

確かに、「道徳」授業の空白期間であれば、
国語科以外には「道徳」を教える場がなかったといえます。
しかし、それ以降は「道徳」という授業が別にあるわけです。
国語科で道徳を教える必要性も必然性もないはずです。

国語科で教えるべきは道徳などではなく、
論理的思考の技術を使いこなす能力(中略)端的に言えば、論理的思考力
(P.4から引用)というのが、著者の主張です。
福嶋氏の著作はこの結論を主張することで一貫していますが、
本書はあるべき国語の姿よりも、現状の国語の惨状について多くを費やしています。

北海道に住む者にとっては、思わず苦笑してしまうところもありました。
P.38~44で言及されている、
2012年4月1日付の朝日新聞・教育面に掲載された、
北海道教育大学附属釧路小学校の30代後半の女性教師による授業へのコメントです。
(P.38から引用)
「花まる先生」というコーナータイトルは、「赤点先生」に修正すべきだと思った。
隅から隅まで、ひどい授業である(記事が事実を伝えているのなら)。

(引用終)

何が問題なのかは実際に本書を読んでいただきたいので引用しませんが、
典型的な、貼りモノベタベタ授業で、何を学んだか成果がわからず、
活動を楽しんでオシマイ・・・
というものだったようですね。

第1章「感性の国語を脱却せよ」は前半で、
上記のような小学校教育の問題点を具体例を挙げて
(「内容」より「形式」を重視せよ⇒言語技術をきちんと教えよ)を述べています。

第2章の「読解偏重・難解複雑信仰・長文速読主義を排除せよ」は、
中学~大学受験の問題点を抉り出しています。
特に「物語・小説を読解問題に出すなかれ」という主張は同感でした。

第3章「国語教育はこう変えろ!」は、
著者の主張するあるべき国語教育が書かれています。
この部分は、既に出版されている著者の他の著作とダブります。
「ふくしま国語」のエッセンスとでもいうべきものです。

第3章では、「『好きです嫌いです作文』をやめよ」(P.242)というところが、
特に印象に残りました。
小学校の作文でよくあるパターンですね。

著者は昨今はやりつつある国語のPISA型授業にも警鐘を鳴らしています。
(P.264~273)
要約すれば、基礎的言語技術を教えずに、「応用力」だけを問うことへの疑問です。
基礎なくして応用ができるわけがありませんね。

ところで・・・
国語がこんな惨状なのに、「外国語活動」と称して、
ALTのカッコイイ「外人の(※アジア系は例外?)」お兄さん、お姉さんと、
「英語ごっこ」してご満悦なのが、今の学校現場です。
あまり必要性を感じませんが・・・

それはさておき、国語教育を憂慮している方、
あるべき国語教育を考えている方であれば、ぜひ手にとってお読みください。
現状の問題点がハッキリ見えてくるはずです。

以前、福嶋氏の【小学校教育が危ない】というサイトについて記事を書きました。
よろしければお読みください。
おすすめサイト~【小学校教育が危ない】(ふくしま国語塾 主宰 福嶋隆史のホームページ)

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コメント

「題なし」の及川様、コメントありがとうございます。
日本語に関する本をたくさん読んでおられるのですね~!
『国語が子どもをダメにする』は2012年8月に出版されたばかりの本です。
『国語教科書の思想』はそのうち読んでみるつもりです。
クラシック音楽以外の記事にもコメントいただけてうれしいです。

てんしな?日々さん

「題なし」の及川です。
私はてんしな日々さんとは逆に、「国語教科書の思想」は読んでいて(書評は間に合っていないというか、書くタイミングを逸したというか・・・)、「国語が子どもをダメにする」が未読でした。

日本語に関する本は、結構読んでいる方だと自負していたのですが、ウカツでした。

早速貴サイトからアマゾンで購入させて頂くべく、手続きした処です。
興味深そうな本を紹介頂き、ありがとうございました。

この記事へのコメントは終了しました。

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