埼玉県の道徳教材掲載「天使の声」は美談・美徳としてはいけないのか?
週刊ダイヤモンドのサイト「ダイヤモンド・オンライン」で、
「3.11の「喪失」~語られなかった悲劇の教訓 吉田典史」
【第10回】 2012年4月17日
「他人のために死ぬことは「美徳」と言えるのか?
南三陸町の女性職員を道徳教材にした教育者の“良識”
――浅見哲也・埼玉県教育委員会職員のケース」
という記事を読みました。
美談・美徳として扱われていいのか、という疑問を投げかけた記事で、
日本の道徳心・道徳教育について改めて考えるきっかけになりました。
東日本大震災で南三陸町に大津波が襲った際、
町の防災無線で町民に避難を呼び掛け続け、
津波の犠牲になった町職員遠藤未希さん=当時(24)=について、
埼玉県の公立学校で今年の4月から使われる道徳の教材に載ることになった、
というニュースを今年の1月に読みました。
壮絶な美談だな~と思いますし、
道徳で取り上げられるにふさわしい、とも思いました。
⇒無線で避難呼びかけ…「天使の声」遠藤さん 道徳の教材に
上記のニュース記事での取り上げられ方は、一般的な感想といえます。
(引用)
宮城県南三陸町の防災対策庁舎から防災無線で町民に避難を呼び掛け続け、津波の犠牲になった町職員遠藤未希さん=当時(24)=が、埼玉県の公立学校で4月から使われる道徳の教材に載ることが26日、分かった。「天使の声」というタイトルで、遠藤さんの任務への使命感などを紹介。両親は「娘が生きた証になる」と涙を流している。
命を賭したアナウンスで多くの町民を高台に避難させて救った遠藤さんが、学校で語り継がれることになった。
埼玉県は東日本大震災後に、震災で助け合う人間ドラマを取り上げる道徳教材を計画。昨年10月の会議で、作成委員の一人が遠藤さんのエピソードを提案。同教育局生徒指導課の浅見哲也指導主事によると「任務への使命感、自分より人のことを考える人としての誇りを子供たちに教えられる」と採用に向けて動いた。
昨年12月上旬、浅見主事が遠藤さんの両親に電話で「遠藤さんの行いを子供たちに伝えたい」と依頼。同28日に遠藤さんの父清喜さん(57)から承諾の電話連絡があったという。教材への採用が決定したとの知らせを聞いた清喜さんは「娘が生きた証になる」と話し、母美恵子さん(53)は「娘は自分より人のことを考える子だった。子供たちにも思いやりの心や命の大切さが伝わればいい」と涙を流した。
タイトルは「天使の声」。遠藤さんのアナウンスで多くの町民が避難して助かったことから付けられた。埼玉県の公立学校は小中高合わせて1232校で、生徒は約60万人。浅見主事は「人への思いやりや社会へ貢献する心を伝えたい」と話している。
(引用終)
一方、冒頭に掲げた吉田典史氏の記事では、おおむね否定的な書かれ方をしています。
哀れな犠牲者の一人、
いや、もっと露骨にいえば「犬死」(さすがにそこまで書いていませんが・・・)だと・・・
記事は、埼玉県教育局県立学校部生徒指導課の指導主事、
浅見哲也氏へのインタビューから構成され、
吉田典史氏の主観で味付けされています。
違和感を覚えた箇所を抜粋します。
詳しくはぜひ全文をお読みください。
(引用)
筆者は、こんな疑問をぶつけた。
「道徳を専門とする教師と接したり、彼らのブログを見ると、『思想が戦前の国家主義に近い』と感じることがある。国や社会の秩序を重んじることを、生徒に考えさせることは当然だ。だが、もしもその内容が時代錯誤であるとすれば、好ましくない」
(中略)
筆者はさらに聞いた。
「住民の命を救おうとしたことは事実だろうが、彼女は避難をしようとして波に飲まれている。町役場の危機管理の姿勢としては、検証すべきものがある。さらに防災無線で呼びかけた試みにも、賛否両論がある。それでも教材にする場合、教材文を書くときや授業で使うときに注意を払うことが必要だ。漠然と教えると、単なる美談になりかねない」
(中略)
浅見氏は、「遠藤さんの行為には、強さや気高さがある。まさに道徳教材にふさわしいと思えた」と語る。筆者は南三陸町へ何度か赴き、町役場の防災体制などを耳にしているだけに、この「気高さ」という言葉にやや違和感を覚えた。浅見氏に、率直な思いを伝えた。
「確かに、気高い姿勢なのかもしれない。だが、波の高さを正確に教えられることもなく、『自分は助かる、助けてもらえる』と信じつつ、上司らの指示を忠実に守ったのだと思う。その意味で、気の毒で仕方がない。『犠牲になった』という言葉は浮かんできても、『気高さ』なるものを見いだせない」
浅見氏はこう答えた。
「この道徳の授業では、町役場の防災体制云々ではなく、子どもたちに遠藤さんという登場人物の行為に沿って、場面ごとの気持ちや考えに思いを巡らして欲しいと願っている」
筆者と浅見氏の受け答えの“ズレ”は、筆者が道徳の授業とはどのようなものであるのかを正確には理解していないことから生じるのだろう、と思う。
(中略)
ここまでの説明を受けると、 “自己犠牲”を強いる教材なのではないか、“美談”として死を取り上げることになるのではないか、と懸念していた思いが少し消えていく気がした。
(中略)
今回の道徳の教材が、道徳の授業内で完結するならば、そのような誤解はないのだろう。しかし、それが間違ったやり方で使われたりして、子どもたちに誤って解釈されると、問題になり得る。今後、教育委員会は現場での使われ方を注意深く観察していくのだろうが、それもまた必要なことである。
(引用終)
埼玉県の道徳教育のねらいとしては、
職務遂行の気高さをたたえよう、という意図があるのですが、
(⇒彩の国の道徳 「心の絆」※「天使の声」全文が読めます。)
吉田典史氏は引用箇所のとおり、
どちらかというと否定的です。
これは、個人の考えも多くありますが、
戦後の道徳教育の「成果」ともいえます。
国家やより多くの人のために、
時には自分を犠牲にする生き方を「無駄死」、「犬死」としてよいのでしょうか?
それとも、亡くなられた遠藤さん(や殉職した警官や消防士、自衛官等)は、
職務を放棄してでも、とにかく逃げたらよかったのでしょうか?
みなさんならどう思いますか?
私としては、埼玉県の教育委員会が「天使の声」としてこのエピソードを取り上げたのは、
慧眼だと考えます。
防災意識のことだけではなく、
「自分さえよければいい」という風潮に一石を投じる内容だからです。
尊い死を無駄にしてはならないのです。
吉田典史氏の著作です。
震災死 生き証人たちの真実の告白
※ジャーナリズムとしては第一級の記録のようです。
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この話は持ち上げすぎると神風特攻隊のようならないかと心配します。子供達が「彼女のあとに続け」と急進化しなければいいですがまた本文も書いて頂いてますがご本人も助かりたかったに違いありません。
投稿: FromQ | 2012年4月21日 (土) 18時11分