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2012年3月11日 (日)

NHK・3月11日のマーラー(2012年3月10日放送)

東日本大震災からはや1年・・・
震災関連番組は数多いですが、その中でも異色の存在といえる番組であり、
音楽関係での第一級のドキュメントでした。
2012年3月10日放送のNHK「3月11日のマーラー」を観ました。
大震災発生により次々とコンサートが中止になるなか、
数少ない例外の一つとして、
すみだトリフォニーホールでの新日本フィルのコンサートは定刻どおり行われました。
指揮者・オーケストラあわせて94人に対して、観客は105人・・・
本番に至るまでの演奏者・観客の「ドラマ」、
本番が始まってからの「ドラマ」に胸を打たれました。
新橋から墨田区の会場まで10キロメートルの人波をかきわけて、
本番45分前にやっと到着したホルン奏者のエピソードや、
まばらなコンサートホールの様子を思い出す観客・・・
津波の映像に言葉を失う楽団員たち・・・
それでも、ただ一人のお客さんしかいなくても、
演奏を行う、と決断した事務局の判断はスゴイ!

 

当日の指揮者、ダニエル・ハーディングさんや、
楽団員、観客が次々と当日の胸の内を語っていく姿・・・
第1楽章の葬送行進曲や第2楽章の荒れ狂う様子に、
地震や津波の映像に重ね合わし、無事を祈るしかない・・・
演奏最中にも余震がきても、なお平然と演奏は続きました。
まさに極限状況に近い中での演奏といえます。
記録映像が残っていたのは幸いでした。
指揮者をはじめ、楽団員や事務局の人たちの演奏への意気込みは、
まさに「プロフェッショナル」そのものでした。

 

当日の演奏プログラムが、マーラーの交響曲第5番だったというのは、
偶然とはいえ、まさにぴったりでした。
(たとえばウィンナ・ワルツとかだったら、中止した方がよかったでしょう。)
葬送行進曲から始まり、有名な第4楽章のアダージェットを経て、
輝かしいフィナーレで終ります。
苦悩から歓喜へ、といった交響曲の王道ですね。

 

この番組を観ながら、音楽の力、というものを考えさせられました。
タイタニック号が沈没しようという中で、
乗客たちが平静を少しでも保てるように演奏し続けた楽団員のことを想起しました。
非常時にこそ、「日常」を保つようにするというのは、
実に大変な努力ですね。

 

なお、当日のチケットは完売でしたが、ほとんどの人が来ることができなかったため、
払い戻しと、当日来ることができなかった人のために、
昨年6月に代替公演が行われました。
NHKでもその様子の一部が放映されていました。
代替公演に行った感想が書かれているブログを見つけましたので、紹介します。
この方も、曲を聴きながら大震災のことなどさまざまなことを思い巡らしていたそうです。
【演奏会 感想】ダニエル・ハーディング指揮新日本フィル
チャリティ・コンサート(2011.6.20 すみだトリフォニーホール)
(nailsweetさんのブログ「Langsamer Satz」)
番組の中で、観客の方の一人が、
当日はすばらしかったけど、翌日以降大震災のあまりの凄惨さを知るにつれて、
コンサートに行ったことに対して罪悪感さえ抱いてしまったことも紹介されていました。

 

ところで、この番組を観る前に、
久しぶりにマーラーの交響曲第5番の第4・5楽章を聴いてみました。
(普段はどちらかというと苦手な曲なので、滅多に聴かないのですが・・・
特に第1・第2楽章・・・)
今手元にあるのは、ショルティ指揮シカゴ交響楽団の演奏です。
バーンスタイン・VPOの演奏のような粘っこさはありません。
しかしスッキリとした魅力ある演奏といえます。

 

ショルティ盤

 

被災地の復興はマーラーの交響曲第5番でいえば、
まだ第2楽章にすぎないのかな、と思います。
早く第3楽章、いや輝かしいフィナーレへ向かうことができる日が
1日も早く来ることを願ってやみません。

 

(追記)
よく読んでいるブログ「ミニ音楽評」の3月11日記事、
震災の日に演奏したマーラー」で知ったのですが、
新日本フィルのHPで、
6月の代替コンサートの際にハーディングさんが寄せたメッセージが公開されています。
Music Partner of NJP ダニエル・ハーディングよりメッセージ ハーディングさんの当日の記憶、演奏への思いも、インタビューとして公開されています。
2011年06月03日ハーディング最新インタビュー
「この交響曲を演奏するたびに、私は3月11日を思うことでしょう」

 

(2012年5月14日追記)
この放送が2012年3月期の「ギャラクシー賞月間賞」に選ばれたそうです。
放送批評懇談会が選ぶベスト番組【ギャラクシー賞月間賞】
奇跡の重なりが生んだ珠玉の一本~NHK「3月11日のマーラー」
(GALAC2012年6月号)

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コメント

「題なし」の及川さん、コメントありがとうございます。
すばらしい番組でしたね。
番組の余韻に浸ることができていいですね~

私はというと、あの番組に引き続いて、
NHKスペシャル「映像記録 3.11~あの日を忘れない~」
という大震災関連番組をついつい観てしまい、
地震・津波の阿鼻叫喚地獄に圧倒され、
マーラーの余韻があっという間にふっとんでしまいました・・・
やめとけばよかった(;д;)

てんしな?日々さん
「題なし」の及川です。トラックバックありがとうございます。
私も5番は余り聴かないのですが、番組の余韻さめやらぬ中、しばらくの間、自分のページに自分でDTMで作った、曲の断片を聴いて過ごしました。
また、あのような状況にあって演奏するのに適している、ということを教えてくれた番組でもありました。

そして、引用されているnailsweetさんの記事、素晴しいですね。3月11日付けの記事に追記する形でnailsweetさんの記事のことなどを、現在3月12日ですが、書きました。

この記事へのコメントは終了しました。

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