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2011年9月 4日 (日)

「みくに」か「おくに」か、「みこ」か「おんこ」か・・・聖書・典礼における「御」の字の読み方の考察

紀伊国屋書店の聖書コーナーに行くと、
塚本虎二訳新約聖書』が置いてありました。
無教会主義の2代目リーダーとして有名な塚本虎二(1885-1973)の個人訳聖書です。
福音書使徒のはたらき(使徒言行録・使徒行伝)は、
岩波文庫で分冊版が出ていましたが(「使徒のはたらき」は現在絶版)、
新約聖書全体としての刊行は今回初めてとのことです。
8月下旬に出版されました。


塚本虎二訳新約聖書(新教出版社)
塚本虎二訳新約聖書


新約聖書 福音書(岩波文庫)
新約聖書 福音書 (岩波文庫)


新約聖書としてはちょっとお高い4200円・・・
(新教出版社の柳生直行訳新約聖書も高い・・・3990円)
そのうち手にいれようとは思いますが、まずはパラパラと立ち読み。
(「福音書」だけは岩波文庫で読んだ気がしますが、
訳文があまり好きではありませんでした。)
この聖書では、通常の聖書の順番である、
「マタイ→マルコ→ルカ→ヨハネ・・・」ではなく、
マルコ→マタイ→ルカ→ヨハネ・・・」と、
マタイ福音書とマルコ福音書を逆にしていました。
(同様の並べ方は、岩波書店の「新約聖書翻訳委員会」訳もしています。)
理由は、書かれた年代順ということと、
マタイの後にマルコを並べると、マルコの卓越性が埋没しかねない、
といったものが書かれていました。
訳文は岩波文庫で読んだときよりも、文字が大きいせいか、
読みやすく、できるだけ註解がなくてもわかるように工夫されているな、と思いました。


岩波書店 新約聖書(新約聖書翻訳委員会訳)
新約聖書


さて、今回問題にしたいのは、「主の祈り」の訳文です。
塚本訳は、インターネットでも公開されていますので、
そこから引用します。
塚本虎二訳新約聖書

わたしたちの天のお父様、
名前がきよまりますように。
国が来ますように。
心が行われますように、天と同じに、地の上でも。
その日の食べ物をきょうも、わたしたちに戴かせてください。
罪を赦してください、わたしたちも罪を犯した人を赦しましたから。
わたしたちを試みにあわせないで、悪から守ってください。


」という文字に下線を引きましたので注目してください。
漢字で書くと「」ですね。
この「」という文字、聖書・教派によって、それぞれ読まれ方が違います。

通常の聖書の訳では、「」は、「」と振り仮名がつけられています。
「神の子」は「かみのこ」です。
新共同訳での「主の祈り」の前半(マタイ6:9、10)を引用しましょう。


天におられるわたしたちの父よ、
御名な)が崇められますように。
御国くに)が来ますように。
御心こころ)が行われますように、
天におけるように地の上にも。


」にはすべて「」と振り仮名がつけられていますね。
(クリスマスの有名な讃美歌「神の子は今宵しも」でも、「こ」ですね。)
例外は、「父」(おんちち)です。
御父(おんちち)は、わたしたちを闇の力から救い出して、
その愛する御子(みこ)の支配下に移してくださいました。
(新約聖書コロサイの信徒への手紙1:13新共同訳)
御父」と「御子」が出てくる場合は、
おん」と「」を使い分けることになります。
新改訳では、「御父」は「ちち」と読ませています。
(そうなれば、聖霊=御霊=たま、と使い分けることがなくなりますね。)
新改訳での用例を引用します。

神は私たちにたま)を与えてくださいました。
それによって、私たちが神のうちにおり、
神も私たちのうちにおられることがわかります。

私たちは、ちち)こ)を世の救い主として遣わされたのを見て、
今そのあかしをしています。

(新約聖書ヨハネの手紙Ⅰ4:13~14新改訳)
そういえば、「御前」は「まえ」と読みますね・・・
新改訳の読ませ方は、一番スッキリしています。

一方、カトリックでは、「」は「御父」、「御子」という場合にのみ、
おん」と読ませています。
フランシスコ会訳・バルバロ訳では、「くに(御国)」、「な(御名)」は、
国」、「名」とひらがな表記しています。
」を場合によって「おん」、「」と呼び分ける不自由を避けるためなのでしょう。
ただ、「おんこ」という響きは、あまり好きではありません。
理由はあえて書きませんが・・・(察してくださいませ)


フランシスコ会訳聖書 聖書全巻(サンパウロ)
【送料無料選択可!】聖書 原文校訂による口語訳 (単行本・ムック) / フランシスコ会聖書研究所/訳注
※8月に入手しました。
記事を書いていますのでよろしければお読みください。


バルバロ訳聖書(講談社)
聖書


「神の子」が、「かみのこ」なのか、「かみのおんこ」なのか。
あるいは、「父」が、「おんちち」なのか、「ちち」なのか。
御名」、「御国」、「御心」は・・・?
漢字の読み方の問題が、キリスト者の一致に妨げになってはいけませんね。
一番合理的なのは、新改訳のように、
」をすべて「」と読ませることではないか、と考えますが、
それぞれの訳や教派的伝統から、なかなか難しいのでしょうね・・・
そういう意味では、塚本虎二訳の「国」、「心」というのも、
現時点では「アリ」なのでしょう。
ただ、「おくに」、「おこころ」という「地上的なもの」と、
「みくに」、「みこころ」といった「聖なるもの」を分けておく必要があるのでは、とも考えます。

余談ですが、「バルバロ訳聖書」について調べていると、
講談社学術文庫で、
バルバロ訳聖書の「創世の書」(創世記)のところだけが、
今年の4月に出版されていました。
知らなかった・・・
(とはいえ、バルバロ訳聖書を持っていますので、あえて買う必要はありませんが・・・)
Amazonではひどいコメントがつけられています・・・(;д;)
何故にこの部分だけ出版したのでしょうか?


旧約聖書 天地創造 《創世の書》 (講談社学術文庫)

旧約聖書 天地創造 《創世の書》 (講談社学術文庫)

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