書評:杉山登志郎著『発達障害の子どもたち』(講談社現代新書)
興味があって、というよりも、必要に迫られて、この本を読みました・・・
杉山登志郎著『発達障害の子どもたち』(講談社現代新書)は、
発達障害とは何か、という概略・全体像を知るには絶好の本です。
この本を読んでから、家庭向けの本や、教育現場向けの本を読むと、
理解が深まると思います。
発達障害を知るすばらしい入門書です。
本の中で一番印象に残るのは、
「第一章 発達障害は治るのか」で取り上げられた、
学習障害にもかかわらず、無理に通常学級で教育を続けたA君が、
引きこもり状態になってしまっていることと、
自閉症のB君が特別支援教育を通して適切なサポートを受けた結果、
障害者枠で大企業に就職して生き生きと働いている様子の比較です。
どちらも、著者が長年にわたって相談にのっていたケースです。
「発達障害児も普通の教育を受ける方が幸福であり、また発達にも良い影響がある」
この意見を著者は上の二人の例をあげて、誤解である、と退けています。
本の中には、たくさんのすばらしい言葉が書かれていて、
引用したいところがいくつもありますが、そのうちの一つを第一章から引用します。
「あなたが、自分が参加しようとしても半分以上は理解できない学習の場にじっと居ることを求められたとしたらどのようになるだろう。また自分が努力しても成果が上がらない課題を与え続けられたらどのように感じるだろう。子どもにとってもっとも大切なものの一つは自尊感情である。子どもの自信をそしてやる気を失わせないことこそが重要なのだ。」
(P.22から引用)
学校現場では、小学校中学年レベル(通常学級)で、
既に「お客さん」状態(ただ教室にいるだけの存在)になっている子が何人もいるそうです。
そういう子であっても、誰しも適切に教育を受ける権利があるのです。
この本の最後の方には、
「第九章 どのクラスで学ぶか---特別支援教育を考える」という一章があります。
日本の教育における特別支援教育の問題を短くも痛切に指摘しています。
たとえば・・・
「しばしば通常学級の担任が持たせられないという理由で、特殊教育の担当者が決められていたことすらあった。健常の子どもたちに十全に対応できなくて、なぜ特別なニーズのある子どもたちに対応ができるであろう!」
(P.211から引用)
私としては、第一章と第九章が、特に心に残りました。
適切な教育を受けられなかったために、犯罪者や引きこもりなど、
社会適応できなかった人を少しでも減らす努力が、教育界には必要なのです。
ぜひ多くの教育者や発達障害を抱えるお子さんに関わる人に読んでほしい1冊です。
最後に、第九章の終わりにある言葉を引用します。
「 すべての子どもにとって、健康なそだちに普遍的に必要なものは何かということを考えてみると、愛着者から与えられる肯定感と、自己自身が育む自尊感情の二つではないかと思う。この自尊感情とは空想的な万能感の対極にあるものである。自分の万能感を乗り越え、しかしその上でなお、自分もそこそこにやれているという実感である。筆者はこの二つがすべての子どもたちに保障されることを願うものである。(中略)
発達障害とは、明らかに自らの責任で子どもたちが受けたものではない。それをきちんとサポートするシステムこそ、歴史の進歩である。」
(P.212~213から引用)
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