神のなされることは皆その時にかなって美しい(伝道の書3:11)【自作曲】
今回は、
旧約聖書・伝道の書(コヘレトの言葉・伝道者の書)からの作曲を紹介します。
テキストは、以下のとおりです。
「神のなされることは皆その時にかなって美しい。
神はまた人の心に永遠を思う思いを授けられた。」
(旧約聖書 伝道の書3:11口語訳)
以前、同じ聖書箇所の新共同訳への作曲を紹介しています。
https://francesco-clara.cocolog-nifty.com/blog/2010/03/post-370b.html
その曲は短調で、少し無常観が混じっていますが、
今回紹介する曲は、どちらかというと楽天的・全肯定的な感じがします。
「伝道の書」は訳によってタイトルの呼称が異なります。
新共同訳は「コヘレトの言葉」、
口語訳は「伝道の書」、
新改訳は「伝道者の書」、
バルバロ訳は「コヘレットの書」。
いずれもタイトルが異なりますので、
以下、新共同訳の呼称「コヘレトの言葉」を使います。
「コヘレト」とは、どういう意味なのでしょう?
従来の訳で用いられた、「伝道者」という意味でしょうか?
(wikiを参照すると、そう書いてありますが・・・)
しかし実際には、「集会で話す人」の方が、より原語に近いそうです。
バルバロ訳にある「コヘレットの書解説」冒頭から引用します。
「 旧約聖書の本は数多いが、特にこのコヘレットの書は、異彩を放っている。この作者は、みずから「コヘレット」と名乗っている。この名は、ヘブライ語の「カハル」という動詞から出ている。カハルとは「人を集める」の意味である。
ギリシア語では、このコヘレットを「エックレジアステス」と訳している。このことばは「集会で話す人」の意味なので、日本語でも「伝道の書」といわれるようになったのだろう。しかし、ヘブライ語のコヘレットの意味からすれば、「伝道の書」というよりは、「司会の書」という方が近いように思われる。」
(バルバロ訳聖書 P.1086から引用)
新共同訳では、あえて「コヘレト」を訳さずに、そのまま使っていますね。
「コヘレトの言葉」は、旧約聖書でもかなり異質な書です。
勧善懲悪的な内容が多い旧約聖書の中で、きわめてリアリズムに満ちた内容です。
私にとっては、実は旧約聖書で初めて読んだのが、「コヘレトの言葉」でした。
高校生の時、スタインベックの『怒りのぶどう』という小説を読みました。
その中に出てくる、「ジム・ケイシー」という説教者が、
会話の中でひんぱんに「コヘレトの言葉」から引用をします。
「旧約聖書をぜひ読んでみたい!」という気を起こさせた作品でした。
「伝道者は言う、空の空、空の空、いっさいは空である。
日の下で人が労するすべての労苦は、その身になんの益があるか。」
(伝道の書1:2~3口語訳)
まるで「方丈記」の冒頭のような、東洋的無常観にあふれた智恵の言葉が、
私を魅了しました。
(ちなみに、最初に買った聖書は、口語訳でした。
しかしあまりに訳文がつまらなく、出エジプト記あたりで挫折しました・・・
新共同訳と新改訳その他の訳は相当な回数通読を重ねていますが、
口語訳だけは、いまだに1回も通読していません。参照にとどめる程度です。)
「この地上には空しいことが起こる。
善人でありながら
悪人の業の報いを受ける者があり
悪人でありながら
善人の業の報いを受ける者がある。
これまた空しいと、わたしは言う。」
(コヘレトの言葉8:14新共同訳)
「太陽の下に起こるすべてのことの中で最も悪いのは、
だれにでも同じひとつのことが臨むこと、
その上、生きている間、人の心は悪に満ち、
思いは狂っていて、その後は死ぬだけだということ。」
(コヘレトの言葉9:3新共同訳)
善人は祝福され、悪人は裁きを受ける、という旧約の宗教観に対して、
聖書自身が、アンチテーゼを主張しているのが興味深いですね。
「コヘレト」のように、人生を斜めに見る存在を、正典に編入したのが、
ユダヤ人の卓見である、ともいえましょう。
曲の紹介に移りましょう。
ニ長調のおだやかな曲です。
人生の甘さ苦さを味わった上で、それでもなお、人生を肯定せずにはいられない・・・
そんな気持ちが含まれているような曲です。
メロディ(midiファイル)と楽譜(PDFファイル)とは、
下記からダウンロード願います。もちろん無償です。
「20110216_ecclesiastes0311no02.MID」をダウンロード
「20110216_ecclesiastes0311no02.pdf」をダウンロード
今回、「コヘレトの言葉」を元に旧約聖書の全体像を見渡すことができる、
『旧約聖書の世界』(池田裕著。岩波現代文庫)を紹介しようと思ったのですが、
どうやら絶版のようです・・・
図書館や古本屋で見つけたら、ぜひ読んでみてください。
日本聖書協会では、旧約聖書の「箴言」と「コヘレトの言葉」だけを収めた、
『ユダヤ人の知恵―成功への道』という読みやすい本を出版しています。
聖書そのものを読む、入門書としてすぐれています。
各ページにソロモンやユダヤ文化についての豆知識がついています。
スタインベックの小説『怒りのぶどう』も紹介しておきます。
ジョン・フォード監督により映画化もされていますね。
(私はまだ観たことがありませんが・・・)
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