書評:和田秀樹著『受験のシンデレラ』(小学館文庫)
受験生や、希望を見失っている人におすすめの小説です。
精神科医の和田秀樹氏が初めて監督した映画、
『受験のシンデレラ』を、氏自らが小説化したものです。
私はまだ残念ながら、その映画を観ていませんが、
(公式HPを見ると、北海道では公開されていないようです。
レンタルビデオ店でも、パッケージを見たことはありません。)
なかなか良さそうな内容かな、と思います。
モナコ国際映画祭で4つの賞をとっています。
ちなみに、モナコ国際映画祭というのは、2003年から始まったもので、
大きな特長の一つが、
「暴力、セックス描写のない家庭向けの映画のみを対象とする。」です。
(WIKIより引用)
映画と小説のあらすじをWIKIでうまくまとめていますので、引用します。
“受験指導のカリスマ”と呼ばれ、富も名声も手に入れた塾講師の五十嵐。かつての正義感や情熱をすっかり失っていた彼は、ある日、余命1年半の末期癌との宣告を受ける。旧友でもある外科医の小宮は、治癒は絶望的であり、根治治療よりも余命を充実して全うできるよう緩和ケアを受けることを勧める。
そんな時、五十嵐は貧しい家庭に暮らす高校を中退した16歳の少女、真紀と出会う。劣悪な家庭環境で自暴自棄になっていた彼女だが、その潜在的な能力に気づいた五十嵐は、彼女を東大に合格させることを自らの最後の使命と定め、自分の持てるすべての受験テクニックを真紀に注ぎ込んでいく。
さて、小説の感想等に移りましょう。
主人公の塾講師・五十嵐は、癌で死んでしまう、というのを除けば、
だいたい、和田秀樹氏そのもの、というのがすぐわかります。
『受験は要領』(PHP文庫)という大ベストセラーを出している人ですから。
そういう意味では、かなり自伝的な要素が強いものです。
もっとも、五十嵐は、結構ワルな面もあるので、
ちょっと恐そうなサングラスをかけた和田秀樹氏、という感じですね。
東大受験は、確かに北海道(ただし札幌市を除く)に住んでいると、
夢のまた夢、というイメージしかなかったですが、
完璧を目指すのではなく、
最低ラインでもいいから、トータルで合格するのを目指す、という受験テクニックは、
「へぇ~」と思わされました。
もちろん、これはフィクションですから、そんなに簡単に行くものではありませんが・・・
小説としては、最初のところはかなりぎこちない感じがしますが、
中盤からは、物語にグイグイと引き込まれていきます。
「受験のシンデレラ」となる高校中退の少女・真紀へ渡される、
実在の参考書の数々や、受験の極意というべきカードがたまっていくところなど、
とても参考になる情報が満載です。
受験版「あしたのジョー」とでも言うべきか・・・
貧しくても、高校中退でも、やり方次第、本人の努力次第では、
一流大学を目指せるんだ、という励ましこそ、この作品の第一の主題です。
(第二の主題は、緩和医療によって、末期癌でも、かなり最期まで、
人間らしい生き方ができる、というものです。)
受験勉強をフルマラソンに例えるなら、
いきなり42.195kmを走るのは、まず無理ですね。
少しずつ、余裕で走ることができる距離を伸ばしつつ、
適切な練習メニューを提示することで、
フルマラソンは可能になるでしょう。
受験勉強でも、たぶんそうなのでしょうね。
著者は、「あとがき」の中でこう書いています。
「 現在の教育格差というもののなかで最大の問題は、国が推進したゆとり教育の影響で、受験名門の私立中高一貫校に入らないと東京大学や有名大学医学部に合格することが難しくなっており、経済的に豊かでない人たちや地方の人々はその機会が著しく狭められていることにある。それらの人たちは結果として勉強の絶対量が少なく、一流大学への進学を断念せざるを得ず、将来に希望を持つことができず、簡単に人生を諦めてしまうという大きな問題も生まれている。それを「希望格差社会」「意欲格差社会」「下流社会」などと呼んで、多くの社会学者が口を揃えて問題視し、いまや流行語にすらなっているのだ。
私も、日本の子供たちの学力や勉強時間がアジアのすべての国の子供たちに負けていることも含め、さまざまな言論活動を通じてその問題について訴えかけてきたのだが、活字での訴えは結局「上流」の教育熱心な層にしか読んでもらえず、よけい格差感を広める結果になったのではないかと危惧するようにもなったのである。(中略)
やはり活字以外のメディアで訴えかけない限り、今の「希望格差」「教育格差」「学力低下」の問題は解決しないのではというのが結論となり、私を映画製作に突き進ませたのである。」
(『受験のシンデレラ』P.250~251から引用)
この小説と映画が、「格差社会」の希望の福音の一つになってほしいと思います。
映画の公式HPは、以下です。
http://www.juken-movie.com/
和田秀樹氏の公式ブログは、以下です。
私は毎日読んでいます。
大胆な発想で、「日本をよくしたい!」という気概があふれています。
http://ameblo.jp/wadahideki/
和田秀樹氏には関係ありませんが、
毎日私が読んでいるブログの一つ
「Meiko Aikoku Blog」(明光義塾釧路愛国教室のブログ)に、
すばらしい文章がありますので、ぜひ読んでみてください。
「MDWとD-MDW」という文章です。
題だけ読むと、何の事だかわかりませんが、
読むと、「まったくそのとおり!」と思います。
この文章のみならず、火を噴くような、
学力向上への熱い想いの記事がたくさんあります。
原作
映画DVD
※2016年7月3日追記
この作品が、NHKでドラマ化されます。
BSプレミアム、日曜夜10時から、全8回です。
小泉孝太郎さん、川口春奈さんが主演です。
→受験のシンデレラ(NHKサイト)
« NHK・歴史秘話ヒストリア「雨にも負けぬサラリーマン ~宮沢賢治 最期の2年半~」(5月12日放送) | トップページ | トラップ一家物語(完結版) »
「おすすめサイト」カテゴリの記事
- noteに投稿しました~「Serenity Prayer(平安の祈り)」(自作曲)のX投稿と楽譜(2024.06.10)
- noteに投稿しました~「あしあと」(自作曲)のX投稿と楽譜(2024.05.13)
- noteに投稿しました~「詩篇100(自作曲)」のX投稿と楽譜(2024.05.11)
- 2022年12月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2023.01.12)
- 2022年11月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧~附:2022年11月19日~20日の小樽・ニセコ旅行の写真ベスト(2022.12.05)
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 2022年12月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2023.01.12)
- 2022年9月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2022.10.03)
- 2022年8月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2022.09.01)
- グリーグ:「ペール・ギュント」聴き比べ~第1組曲を中心に(2022.07.29)
- プリキュアシリーズ全話見終えて(2022.07.20)
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 藤岡幸夫 著『音楽はお好きですか?』(敬文舎)(2021.01.12)
- 2020年11月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2020.12.01)
- 上西充子著『呪いの言葉の解きかた』(晶文社)(2020.09.21)
- 映画”Toc Toc”(邦題:「OCD 〜メンタル・クリニックは大騒ぎ〜」)※OCD=TOC=強迫性障害(2020.08.26)
- 小友聡著『NHKこころの時代~宗教・人生~それでも生きる 旧約聖書「コヘレトの言葉」』 (NHKシリーズ NHKこころの時代)(2020.07.05)
「教育」カテゴリの記事
- 2022年10月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2022.11.03)
- 2022年9月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2022.10.03)
- 2021年6月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2021.07.01)
- 2021年2月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2021.03.01)
- 2021年1月のページビュー(PV)数ベスト10記事一覧(2021.02.01)
コメント
この記事へのコメントは終了しました。
« NHK・歴史秘話ヒストリア「雨にも負けぬサラリーマン ~宮沢賢治 最期の2年半~」(5月12日放送) | トップページ | トラップ一家物語(完結版) »
ご紹介ありがとうございます。
和田秀樹さんは面白そうなことを始めたんですね。
研究材料ができました。
ありがとうございます!
投稿: zapper | 2010年5月14日 (金) 08時56分