ある方から誘われて、某小学校での、研究授業を見学しました。
研究授業では、問題解決型の算数の模範授業が行なわれました。
「問題解決型」の算数、といっても、教育関係の人以外は、
あまり興味・関心がないでしょう。
ここで、私が価値判断を書くよりも、
まず、どんなことが行なわれたかという「事実」を書いてみましょう。
3年生の算数の授業で、12×23という問題を、
筆算を使わないで解く、というものでした。
指導計画によると、
1時間目:5円のチョコを20個買うといくらですか?
2時間目:12円のチョコを20個買うといくらですか?
3時間目~4時間目(研究授業):12円のチョコを23個買うといくらですか?
5時間目:筆算の仕方(例:86×30)
(6~9時間目は記載省略します。)
体育館を使っての授業だったので、
子どもたちは、元気がよすぎるほどでした。
(これは、まぁ、プラスに考えましょう。)
前日までのまとめを子どもたちに次々と発言させていました。
(指名なし発言)
「階段作戦」とか、なんだか聞きなれない言葉が飛び交っていました。
前日までに、子どもたちは、12×20=240、ということを教わっていた、
という設定でした。
その知識をもとに、筆算なしに、12×23=(276)を、
子どもたちに次々と考えさせ、発表させる、というものでした。
子どもたちは、まず、12×20=240だから、
12×23=(12×20)+(12×3)と分けて、
240+36=276、と考える子が多かったです。
次々に子どもたちに考えさせていましたが、
結局、似たような意見を、多少言葉を変えて発言させているだけでした。
そんなのが、20分くらい(最初に考える時間も含めて)続きましたか。
続いて、12×23を、23×12に変えて、
(23×10)+(23×2)=230+46=276
と解く子が出てきました。
その後、似たような意見が続きました。
(この辺から、私の思考力も停止し始めました。退屈・・・)
しまいに、12×23を、
(10+2)×(20+3)と分ける子が出てきて、
結局、きちんと解くことができず
(※中学生で習う、数学の分配公式を理解していないと解けません。)、
「どうしたらきちんと解くことができるのか?」というのを、
子どもたちに説明させて、結局きちんとは説明できませんでした。
授業時間の45分間を、10分以上もオーバーして、
「研究授業」は終わりました。
ここで、あらかじめお断りしておきますが、
私は、その教師を批判しているのではありません。
その教師の「教え方=問題解決型の算数」を批判しているのです。
たぶん、その教師は、研究授業のために一生懸命だったのでしょう。
その熱意には、頭が下がる思いです。
「問題解決型の算数」を広める教師たちは、口々に言います。
「子どもの思考力・創造力を育てる。」と。
しかし、実際はどうでしょうか?
問題点を端的に指摘します。
①なぜ、12×23というたった一問を解くのに、
1時間もかける必要があるのでしょうか?
正しい筆算のやり方をきちんと教えるのには、
5分とかからないはずです。
算数は、国語とかと違って、正しい答えは一つしかありません。
「考える力」云々よりも、子どもたちが、確実にできるようになることが大切です。
わかる子にとっては、こんな問題は楽勝すぎるし、
わからない子にとっては、いくらたくさんの子どもが説明しても、
かえって困惑するばかりです。
(最後のやり方を聞いたら、大人だって困惑するはずです。)
②実際、その授業が終った後、パネルディスカッションの時があり、
その研究授業を実演した教師が自ら語っていましたが、
「子どもたちの学力は、低いほうである。」とのこと。
私は、「当たりまえだ!」と内心思いました。
結局、何が正しいのか、よくわからないし、
わからない子にとっては、
12×23のような簡単な計算が、
おそろしく複雑怪奇なものに見えるはずです。
そうすれば、「ボク、ワタシには無理」、
「算数大嫌い!」となるはずです。
③こんな簡単な問題に、1時間もかけるから、
当然、練習問題は、授業中ではなく、宿題になります。
これがますます算数嫌いを生み出します。
④基礎・基本が身についていないのに、
応用的なことをやらせるのは、
赤ちゃんにマラソンをやらせるような愚です。
「問題解決型学習」というのは、小学生よりも、
高校生とか、大学生とかの、基礎が身についた人がやればいいものでしょう。
(もっとも、大学生も、
小学生の基礎・基本が身についていない人が最近多いようですけど・・・)
向山洋一+前田康裕著
『イラスト漫画で早わかり プロ教師が拓いた教育技術の基礎基本』(明治図書)に、
上記で述べた算数の問題解決型の授業の典型的な例を、
漫画の形で表しています。
( )は私による漫画の説明、
「 」は漫画のふきだしにあるセリフです。
【1コマ目】(教師が黒板に問題を貼ろうとしている。)
(教師)「今日の算数はわり算の問題だぞ この問題をみんなで考えよう」
【2コマ目】(黒板には次の問題が。)
「10まいずつ たばになった色紙が360枚あります。
20人で同じ数ずつ分けると1人分は何枚に」(問題の一部は省略)
(教師)「式と答えを画用紙にマジックで書こう」
「自力解決の時間だ 20分たっぷり考えよう」
(児童Aの心中)「360÷20=18 二十秒でとけるわ 簡単すぎてたいくつよ」
(児童Bの心中)「三百六十を十枚ずつ、まとめると三十六枚・・・二十でわれないぞ」
(児童Cの心中)「いつも画用紙に書くんだよな ノートは使わなくてもいいのかなぁ」
(児童Dの心中)「算数の教科書を開いたことがないけど・・・・」
【3コマ目】(二十分後)
(教師)「みんなの意見を聞いてみよう」
(児童Cが「ぼくの考えは・・・」と説明している)
(児童Aの心中)「方法が少しちがうだけで考え方は同じよ 無駄な時間だわ」
(児童Bの心中)「ぜんぜんわからないよー」
【4コマ目】
(教師)「みんなで力を合わせて一つの問題を解決しましたね。
『考える力』が大切なのです。算数の教科書の練習問題はすべて宿題でーす」
(児童の不満の声「えっー!」「またかー」「やだよー」)
【5コマ目】
(児童Aの心中)「一つの問題をだらだらと時間をかけてとくから
算数の時間はちっとも面白くないわ」
(児童Bの心中)「算数の時間はちっとも分からないよ 算数なんかきらいだー」
【6コマ目】
(向山氏)「こんな『問題解決学習』の方法では基礎学力を身につけさせることはできない!
算数嫌いの子どもを増やしているだけなのだ」
(同著P.164より引用)
いかがでしょうか?
参考になるサイトをいくつかあげます。
・学級崩壊解決の算数授業のコツ
http://www.geocities.jp/takesen12/newpage13.html
(問題解決型の算数の改良版?)
・The新語9@向山型算数
http://www.abetaka.jp/riron/sin/sin9.html
(「問題解決型の算数」の対極です。)
・教師修行ここから始まる~プロを目指して
http://blogs.yahoo.co.jp/eri_eri_eri_love/MYBLOG/yblog.html
以下の本はこの問題の参考になります。
算数科「問題解決学習」に対する批判と提言―科学的数学教育の視点からその非教育性を告発する (21世紀型授業づくり)
プロ教師が拓いた教育技術の基礎基本―イラスト漫画で早わかり
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