教育と『芋粥』~学びからの逃走
現在、私は、日本ユニセフ協会の、
「マンスリー・サポート・プログラム」に参加しています。
それで、日本ユニセフ協会から、定期的に、
「ユニセフ・ニュース」という会報が定期的に送られてきます。
その「ユニセフ・ニュース」最新号(vol.223 2009Autumn)に、
興味深い記事がありました。
「学校に行けない子どもたちに機会を!~学費の無料化を考える」
という特集記事です。
その冒頭の文章を、少し長いですが、引用します:
「現在、小学校に行くことができない子どもたちは
世界で1億100万人います。
その理由はさまざまですが、貧困が大きな要因となっています。
学校に行くには制服代、文具代、教科書代などがかかり、
そのお金を払えない家庭が多いのです。
また、家計を支えるために働きに出て、
学校に行く時間がとれない子も多くいます。
そういう子どもたちにとって、
「学費の無料化」は、学校に行く道を開く手段になります。」
世界中で、ほぼ日本の総人口に等しい数の子どもたちが、
小学校に行くことができない現実・・・
そういう意味では、日本の子どもたちは、
「天国」にいるようなものです。
その特集記事の中では、アフリカ西部に位置する、
トーゴの小学校教育に触れていました。
(「トーゴって、どこにあるの?」と思う方がほとんどだと思いますので、
ウィキペディアで確認してみてください。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%88%E3%83%BC%E3%82%B4
実は、私もよく知りませんでした。)
トーゴでは、以前、一人当たり年間4USドルの学費が必要でした。
しかし、そのお金さえも、払うのが困難、という理由と、
子どもを労働力としてあてにしているから、という理由で、
親が子どもたちを学校に通わせない、ということが多かったそうです。
しかし、つい最近になって、小学校の学費が無料化された、
と記事にありました。
日本や欧米諸国からすると、
わずか4USドル(日本円で400円程度)が払えないというのは、
いかに貧困であるか、を雄弁に物語っていますね。
アジアやアフリカの貧しい国の子どもたちにとって、
「学校に行ける」、「勉強できる」ということは、
とても幸福なことなのです。
しかし、翻って、日本ではどうでしょうか?
文部科学省の発表によると、
平成20年度の小・中学校の長期欠席者(30日以上の欠席者)のうち、
「不登校」を理由とする長期欠席者は、
小学校2万3千人、中学校10万4千人、とのことです。
(それでも、前年度より減っているそうです。)
不登校になる原因は、いじめとか、精神的な問題とか、
いろいろあるでしょうが、やはり多すぎると思います。
また、国際的な調査によると、
日本の中学生の宿題をする時間は、調査国(45カ国)中最短で、
一方、テレビを見る時間は、調査国中最長、との統計があります。
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/3943.html
(※この統計では、塾に行く時間は含まれていません。)
いずれにせよ、学力低下は進んでいます。
日本国憲法第26条には、
教育は権利であり、義務(ただし、「普通教育」のみ)である、
と書かれていますが、
今の子どもたち(や親たち)にとっては、「権利と義務」なのではなく、
金銭で対価を得る、サービスの一つに過ぎなくなっているのかもしれません。
しかも、「勉強させてもらっている」という感謝ではなく、
「勉強してやっている」というような態度で・・・
ここで思い出すのは、
芥川龍之介の短編『芋粥』です。
主人公の下級武士は、
「芋粥を腹いっぱい食べたい」という夢を持っていましたが、
その夢を、ある豪族が見事にかなえます。
しかし、実際に大量の芋粥を見て、
主人公は食欲が失せてしまった、という物語です。
国語の授業で読んだ事がある人が多いのでは、と思います。
日本も、敗戦の後は、
まさに今のアジア・アフリカの貧しい国と同じようなものでした。
焼け野原の中から、勤勉さと努力により、驚異的な復興を果たしました。
そして、世界でも有数の豊かな国になりました。
しかし、今や、日本は豊かになりすぎて、
未来を担う子どもたちが、学びから逃げつつあります。
日本の子どもたちは、学ぶことに、満腹状態なのでしょうか?
(たとえ満腹でも、「○○は別腹」というのがあるはずですが・・・)
8月に読んだ本で、特に心に残ったのが、
内田樹氏の『下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉』です。
不登校とか、勉強しなくなった子どもたち、という現象を分析する、
非常に興味深い本の一つです。
一方、中国の都市部では、超エリート教育をやっているようですね。
朝6時から夜寝るまで勉強漬けで、
海外留学を目指している子どもたちが増えてきているようです。
「ゆとり教育」とか、「詰め込み教育はかわいそうだ」とかいう、
マスコミや文部科学省、教員組合の愚かな主張のもと、
日本の子どもたちは勉強しなくなり、
一方で、中国や韓国の子どもたちはますます勉強する、
というのが現実です。
学問への取り組み、ということだけ考えても、
日本はだんだん没落しつつあります。
私は、この問題をどうしたらいいのか、
正直言って、わかりません。
二つだけ言えるのは、国の教育政策を変える必要があることと、
最後は親の姿勢である、ということだけでしょう。
みなさんはどう思いますか?
(参考)日本国憲法第26条
①すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、
ひとしく教育を受ける権利を有する。
②すべて国民は、法律の定めるところにより、
その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。
義務教育は、これを無償とする。
今回の記事に関連するサイト等を紹介します。
・日本ユニセフ協会
http://www.unicef.or.jp/
・内田樹氏のブログ「内田樹の研究室」
http://blog.tatsuru.com/
下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)
下流志向〈学ばない子どもたち 働かない若者たち〉 (講談社文庫)
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先生はえらい (ちくまプリマー新書)
先生はえらい (ちくまプリマー新書)
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