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2011年10月18日 (火)

「くしろ学力向上提言書2011」を読んで~「釧路の教育を考える会」からのすばらしい提言!

このブログにしばしばコメントを下さる釧路の教育界の雄、
ZAPPERさんのブログ「情熱空間」で、
「釧路の教育を考える会」が発表した「くしろ学力向上提言書2011」を読みました。
(ZAPPERさんは「釧路の教育を考える会」副会長です。)
非常にすばらしい!絶賛に価します!感激しました!
パソコンでも一応目を通しましたが、
本文だけでも全41ページに渡る力作ですので、
プリントアウトしてじっくり読んでみました。
(教育問題に関心をお持ちの方は、
可能であれば、ぜひ印刷してお読みすることをおすすめします。)

・(ブログ記事)逆算理論からの構築(くしろ学力向上2011)(2011年10月15日)
・(上記の関連記事)難しいことなど言っていない!(2011年10月17日)
(いずれもブログ名は「情熱空間」)
・提言書全体(釧路の教育を考える会 資料庫
・提言書本文のみ(PDFファイル)
http://koulutus.yu-yake.com/teigen2011/03_honbun_2011teigen.pdf

上記提言書から、ぜひ読んでいただきたい箇所を可能な限りピックアップします。
【 】が引用部分です。

(1~4頁)
福祉或いは社会保障の分野における課題のひとつとして、貧困による負の世代間連鎖が指摘されています。さらには近年「意欲格差」「希望格差」などの言葉が生み出されているように、現状に立ち向かう意思が、特に基礎学力に不足する層において欠ける傾向があるとの指摘がなされておりますが、これらもまた負の世代間連鎖のひとつと考えられます。これらの連鎖を断ち切り、自立に向けた行動を起こすために何より大事なのはひとりひとりの自尊心であり、それは家庭や学校における小さな成功体験の積み重ねによって醸成され、その成功体験のうち最も個人差のハンディが少ない(誰でも成功できる)機会が学習です。
 従って、学力養成を通して人は人生の選択肢を広くもてるばかりでなく、世代間連鎖をより良い循環に変えていくことができるものと考えます。
】(4頁)

従来の学力論議は、「小学校」、「中学校」、「高校」、「大学」という
学びのステージごとに、「学力が上がった、下がった」とか、
「いや、学力よりも道徳心だ」、といった近視眼的なものが多かったと思います。
学力問題を、もっと広い視点で、一生の問題としてとらえる必要があります。
学力問題を、「貧困による負の世代間連鎖」という、
経済の問題からとらえたことが、ユニークな視点といえます。

(5頁)
学力の定義は特に定められたものがないため本提言においては、「主に家庭及び学校並びにその他の教育機会(以下「教育機会」という)において培われる理解力・思考力・表現力及び教育機会において習得される知識・説明技術・計算力のうち、公正かつ客観的な指標により到達度を評価できるもの」と定義します。
 この中で、生活・仕事をする上で最低限必要な小学校4年生レベルの「読み、書き、計算」能力を「基礎学力」と称します。
 また、日本の最難関大学に入学できるレベルの得点能力を併せもった高い学力を「応用学力」と称します。
 基礎学力を備えていることを前提とし、それ以上のレベルではあるが、応用学力までには至らない学力を「標準学力」と称します。
 小中学校において十分な基礎学力を習得しなかった、或いは就学しなかったなどの理由で、社会で働き、生活するのに十分な基礎学力を有していない人を「形式卒業者」と称します。
 児童と生徒を「児童・生徒」と称します。

「学力」を、「基礎学力」、「応用学力」、「標準学力」と定義したことと、
特に「基礎学力」を、
生活・仕事をする上で最低限必要な小学校4年生レベルの「読み、書き、計算」能力
と定義したのは実にわかりやすいですね。
また、「形式卒業者」というのは痛い言葉です。
現在、こういう若者が増えてきているワケですから・・・
「形式卒業者」を一人でも減らすことと、
「応用学力」を身に付けた「児童・生徒」を増やすことが公教育の課題ですね。

(6~7頁)
5つの緊急実行課題が書かれています。
どれもすばらしいものです。
この中で特に取り上げたいのは、
3番目の「小中連携と中高連携」(6頁)です。
中学校は「小学校がきちんと教えていないから悪い」と言い、
高校は「小・中できちんと教えられていないから悪い」と責任をなすりつけ、
立場がない小学校は、「家庭教育が悪い」と家庭の責任にする・・・
こういう不毛な論議よりも、少なくとも小中高が連携できるような仕組みがあれば、
近視眼的な教育(小学校は小学校だけ、中学校は中学校だけ・・・)にはならないはずです。
教育制度を改革しなくても、十分にできるはずです。
(15頁でも言及されています。)

(8~17頁)
「基礎学力支援」、「標準学力支援」、「応用学力支援」の具体的な提言です。
特に「基礎学力支援」のところがすばらしいです。
「不登校者の基礎学力不足」についてまで言及しています。
これは単に教育だけの問題だけではなく、福祉にも関係することだからです。
何らかの問題(本人の問題もあるし、教師や学校、保護者の問題もあります・・・)で、
教育の機会を逸してしまった人への再チャレンジの機会を、
ぜひ行政当局は与えてあげてほしいものですね。
「標準学力支援」の「キャリア教育」のところも鋭い指摘が書かれています。
単に「職場体験をして楽しかったね・・・」で終らせてほしくないものです。

(18頁~31頁)
手法に関する提言です。
教育と地域の仕組みを概観したときに、「指導に当たる者の意識のずれ」が随所に発生していることがわかります。教育のいわゆる「出口」や「川下」と呼ばれている場である雇用の現場では「基礎学力不足」や「職業観不足」による不採用、或いは早期離職が起きています。高校或いは大学における基礎学力訓練やキャリア教育が十分でないとの認識が雇用側の企業や機関にあるものの、そのことが十分に高校に伝わっていない可能性があります。(企業・機関と高校・大学の意識のずれ)
 しかしこれは、高校側から言えば、入学時の生徒の基礎学力不足や、意欲の問題であるとの指摘に変化します。中学校でどのように教育が行われているのかわからないという高校の教諭も少なくありません。(高校と中学校の意識のずれ)
 さらに中学校では高校進学が最大の進路指導のテーマとなっているため、高校卒業後の進路という視点で生徒の指導を行うことは少ないのではないかと考えられます。また、そもそも小学校4年生レベルの学習進度にも達していない生徒に対しては、中学校の教科課程と並行してそのギャップを埋めることは難しいことから、実質的に打つ手がない状況にあることも考えられます。(中学校と小学校の意識のずれ)
】(18頁)

「児童・生徒」はいずれ社会人となります。
一部を除いて(学者や作家・芸術家、政治家や、犯罪者とか・・・)、
大多数の「児童・生徒」は会社(お役所)勤めをすることになるでしょう。
大して社会経験のないまま教員になった大多数の教師の意識は、
机上の空論や近視眼的教育(小学校だけ、中学校だけ・・・)に陥りがちです。
そこが「意識のずれ」を生み出すワケです。

手法に関する提言では、
小学校では教員の指導力向上(20頁)、
中学校ではキャリア教育支援とアウトプットの増加(22頁)などが挙げられています。
中学校での不登校の問題にも言及されています(23~24頁)。
また、過度な部活練習の禁止についても書かれています(28頁)。
さらには、フリースクール等にも言及されている(29頁)のはユニークです。

32頁以降は、コミュニティ・スクールの導入等について書かれています。
学校という象牙の塔にこもった教育ではなく、
地域の住民の意思が反映された学校づくりの方が断然すばらしく、
児童・生徒とその保護者のニーズにこたえることができます。
日本でも既に制度として認められているのですから、
ぜひ北海道でも、釧路市がモデルケースとして名乗りを上げてほしいものですね。

以上、駆け足で全41頁を概括してみました。
この提言書で感心するのは、教育委員会や現場の教師を悪者扱いしていないことと、
あえて現場の教師の視点を無視したところです。
現場の声を聞いていたら、詭弁に弄されるだけで、
結局は「ムリ、できない」で終ってしまうでしょう。
教育の主体者は教育委員会であり、
ひいては、我々市民である、といえます。
教師や教員組合の都合で教育のレベルを下げるのではなく、
むしろ、教育を通して地域を盛り立てていくこそ求められています。

この提言書が、釧路市できちんと議論され、
可能な限り実現されることを期待したいものです。
また、釧路市に限らず、疲弊した地方都市・町村の教育再生の手立てとして、
全国でこの提言書がたたき台として用いられるといいですね。

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コメント

ZAPPERさん、コメントありがとうございます。
非常に見事な提言書ですね!
とても感激しました!
紹介せずにはいられませんでした・・・

ご紹介ありがとうございます。心よりの感謝を申し上げます。福祉・経済・行政と各方面のスペシャリストと一般市民が集い、1年半に渡る意見交換を経て世に問うた提言書でして、まさに主要メンバーがそれぞれ「魂の何分の一かを削る思い」でまとめたものであります。

釧路局を経由して道教委へ提出しました。釧路市議会議員の各会派と地元選出道議全員にも。「人の真心・善意」が必ずや通じるものであることを信じております!今後もよろしくお願い申し上げます。^^

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